【インタビュー】島田 由香氏|ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社 取締役・人事総務本部長

NEW NORMAL時代の生き方・働き方
〜企業・個人はどう変われるのか〜

新型コロナウィルスによる外出自粛で、大都市圏を中心に取り組みが増加したテレワーク。緊急事態宣言の解除後、すでに平常時の通勤ラッシュの状態に戻りつつあります。

根強く残る書類や印鑑文化からなかなか脱却できず、IT先進国ではなく後進国を露呈してしまった日本。
“新しい生活様式”といった言葉も一時的なもので「喉元過ぎれば熱さを忘れる」日本人気質では、新たな働き方へを推進することは難しいのでしょうか?

コロナ禍が、より生きやすい環境構築に繋がる契機となるように、先頭を走っている企業のリーダーにお話をお伺いし、これからの生き方・働き方について考えていきます。

今回は、「WAA」(Work from Anywhere and Anytime)といった、働く場所・時間を社員が選べる新しい働き方や、採用選考における履歴書から顔写真や性別情報を削除するといった、ジェンダーバランスを平等にする取り組みを積極的に推進している「ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス(以下、ユニリーバ)」取締役 人事総務本部長である島田 由香さんにHAPPY WOMAN代表の小川がお話を伺いました。
島田 由香氏

ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社 取締役・人事総務本部長

1996年慶応義塾大学卒業後、株式会社パソナ入社。2002年米国ニューヨーク州コロンビア大学大学院にて組織心理学修士取得、日本GEにて人事マネジャーを経験。2008年ユニリーバ入社後、R&D、マーケティング、営業部門のHRパートナー、リーダーシップ開発マネジャー、HRダイレクターを経て2013年4月取締役人事本部長就任。その後2014年4月取締役人事総務本部長就任、現在に至る。学生時代からモチベーションに関心を持ち、キャリアは一貫して人・組織にかかわる。日本の人事部「HRアワード2016」個人の部・最優秀賞、「国際女性デー|HAPPY WOMAN AWARD 2019 for SDGs」受賞。高校1年生の息子を持つ一児の母親。米国NLP協会マスタープラクティショナー、マインドフルネスNLP®トレーナー。

コロナ禍での働き方の変化

テレワーク

―「ウィズコロナ」「アフターコロナ」「ポストコロナ」などの言葉と共に、新たな常識「NEW NORMAL」時代に向けた議論が多数行われています。ユニリーバは新型コロナウイルスの影響で、働き方の変化はありましたか?

元々ユニリーバは「WAA」という制度があったので大きな変化はないですが、2月初旬頃からは、より積極的に活用していくことになりました。更に3月中旬からは、基本的にフロントラインと呼ばれる工場や、外勤営業の人たち以外は全員原則「Work from Home(在宅勤務)」としています。

ユニリーバ・ジャパン

ビジョンに共感してくださる方でつくるコミュニティ「Team WAA!」に参加してみませんか?…

「WAA」は、上司に申請すれば、理由を問わず、会社以外の場所(自宅、カフェ、図書館など)で勤務できる制度ですが、今回は自宅に制約されているので、社員が感じる身体や心の不調や、仕事をする環境(机や椅子の問題など)への対策をどうしていくか、という課題はあります。
また、オフィスでなければできない仕事もあるので、その場合は役員、社長の承認を得てオフィスで作業することもあります。

―日本文化に根付いている「印鑑問題」はありますか?

やはり印鑑の問題はありました。社内的にはすでに電子印システムを導入していましたが、今回のコロナの件で、社内は全てこのシステム対応に変わりました。しかし、政府、各省庁など、対応していない外部への提出書類は、通常の書類で捺印する必要がありますのでまだこれからですね。その中でも、ユニリーバも関わりの深い流通業界が、今回の件で変わりはじめました。これはとても大きなことです。

―在宅勤務の増加により「家庭内DV」や「コロナ離婚」など、ネガティブな話であったり、人の活動が制限されたおかげで地球環境が改善され、SDGs(持続可能な開発目標)に貢献しているなどといった皮肉な話があります。
その中で、このような状況下だからこそ前向きな情報を発信していきたいのですが、ユニリーバとして今回新たな発見などはありましたか?

たくさんあります。今回の事態をチャンスに変えようと考える人もいれば、なかなか前向きには考えられない人もいます。もちろん企業なので社内には両者が存在します。その中で、どのようにメッセージを発信していけばいいのか。
今起きている状況の中で、まずはニーズや問題点を聞き出し、それを真摯に受け止めながらアドバイスしていくことの効果性を強く感じました。

次に、オンラインに対する可能性と効果、そしてインパクトを本当の意味で初めて認識しました。例えばイベントを開催する場合、リアルに集まることがメインで、オンラインはオプションの一つだったわけです。
リアルに集まることが当たり前で、今までのやり方の方が経験もあるし、成功がイメージしやすいから。でも、コロナ禍ではオンライン以外の方法が取れない状況になって初めてトライして、大きな発見がありました。最初は私もリアルに会う方がきちんとと伝わると思っていたんですが、実はオンラインの方が伝わるかも、と思うようになりました。会場の空き状況も気にして予約する必要もないし、会場費も発生しないし。チームミーティングは、コロナ後もオンラインで続けようと話をしています。

―会議や打ち合わせを見直すことができましたね。30分で終わる話をわざわざ片道1時間かけて出向き、せっかく来たので1時間程度だらだら話し、また1時間かけて帰社する。もちろん会うことは大切ですが、30分の打ち合わせのために3時間、6倍も時間を消費していました。

本当にそうですね。時間の問題はかなり大きいですし、更に会議の密度も変わりました。イベントでも同じですが、リアルよりもオンラインの方が質問が多くなります。リアルで対面して、顔を見ながらは3人以上ではなかなか難しいですが、オンラインだと人数が多くてもその人の質問をしっかり聞くこともできます。

オンラインでのコミュニケーションは、通常の会話よりも相手の声に対して耳がとても敏感になるので、実は対話にとても向いていると実感しました。オンラインの方が効果があるのではないかと気づけたことが今回大きな発見でした。
また、自分自身の表情を見ながら話すということは、リアルではなかったことなので、すごい意識変化や行動変容をもたらしていると思います。

―今後は、オンラインの打ち合わせが基本で、「実際に会って打ち合わせをする」ということが、貴重な機会になってくるかもしれませんね。

コロナ渦で得た「時間」という価値

コロナ禍

―私はこの1ヶ月半、時間の価値について考えるようになりました。このなかなか味わうことのできない経験を活かすために、完全禁酒、毎朝6時に起きるように生活を変化させました。朝の一番集中できる時間に大事なことをこなし、1日を有意義に活用できるようになり、自分自身がバージョンアップしたと感じています。
島田さんは、リモートワークの割合が増えたことで、家族や生活に何か変化や影響はありましたか?

本当に経験したことのない1ヶ月半でした。今回のこの時間によって家族との会話も増え、関係がよりHAPPYになりました。一時期、息子と少し距離ができていると感じていたことが私にとって結構なストレスになっていることに気づいていました。
それが今回一緒にいる時間が増えたことで、ガラッと良い方向に変わりました。今まで私も忙しく、家にいる時間が少なかったので、ここまで朝から晩まで一緒に過ごすことは初めてで。時間が家族との距離を好転させてくれました。

あとは4月3日に「567ability(コロナビリティ)」という活動を立ち上げて1ヶ月実施しました。コロナ禍では多くの方の命や暮らしが脅かされ、1日も早い終息を願ってやみません。しかし、起きてしまったことを変えることができない以上、未来への不安や心配、怒りにただ飲み込まれてしまうよりも、みんなで少しでも良い方向を向き、新しい能力、つまりアビリティを身につけるきっかけにできたらと考えました。

今は世界中がSNSなどでつながっている時代ですので、皆がつながりあって前を向ければ、世界が良い方向に変わるきっかけになるかもしれない。そんな願いから、全世界で 「We Are The World」を歌おうと決めて、5月6日、朝晩7時にオンラインで500人くらい集まって実施しました。そのグループは、今では2400人ぐらいになってます。私の目標は76億人なのでまだまだ達成は出来てないですけどね。(笑)

そして、私の中で一番大きい変化は「片付け」をするようになったこと。
整理収納士という資格を持つ友人から「中途半端なものに自分の人生を翻弄されている暇はない。」という言葉を聞き、心に響きました。着ようか着ないか迷ってずっと取ってある服。選んでいる時間自体が翻弄されているということに気がついて、全てに「ありがとう」と感謝し、処分したことでスッキリ削ぎ落とされた感じがしました。

―マーク・ザッカーバーグや、バラク・オバマ前大統領、スティーブ・ジョブズなどの成功者の多くが、毎日同じ服を着ていることは有名ですね。私も真似て、同じ種類の服ばかり着ています(笑)

同じ考え方ですね。私の中では片付けは最大に苦手なものの一つで、例えば会社の机も自分ではどこに何があるか分かってはいますが、散らかっていました。コロナ禍で片付けをしたことによってバージョンアップし、これからの仕事の仕方も変わると思ったほどです。

浸透しないテレワーク

テレワーク

―テレワークという言葉はかなり拡がりましたが、実施しているのは大都市圏の20%程度。IT先進国どころか後進国であることを露呈したのが日本の現状です。(もちろんテレワークが導入できない業種もあります)

上層部がITリテラシーが低く敬遠していたり、部下がきちんと働いているかどうか気になって仕方ない上司。そして、9時から5時にオフィスにいれば仕事をしているといった、従来型の労働時間が労務管理の基準。日本企業の評価が過度に時間に偏っているので、成果による評価に徐々にでも移行できなければ、働き方改革やテレワークの本格的な運用の妨げになると考えられます。

ユニリーバでは、どのように「WAA」を導入することとなったのか。そこに大きなヒントがあるかと思います。

まさにマネージャーとしてチームメンバーがきちんと仕事をしているのか気になって仕方がない。だから管理しようとする。
でも、必要なのは「心配(しんぱい)」ではなくて「信頼(しんらい)」です。「ぱ」を「ら」に変えるだけで物事全てがうまくいく。私はこれがパラダイムシフトであると言い続けています。上司も結局は自分自身を信頼していないから部下を疑って管理しようとするんです。 そうではなく、みんなそれぞれに強みがあって、みんながベストを尽くしている、という性善説でいれば、全てがそう回っていくと思います。

人が変わっていく時は、行動を変えるか意識を変えるかしかなくて、意識がなかなか変わらないという人は行動から変えていき両方を連動させるのが良いと思います。まずはやってみることが重要です。

そして、人が変わるきっかけは誰かとの出会いがとても大きいと思います。

―人との出会いも巡ってくるチャンスと一緒で、どうやったらそれに気付き、キャッチできるのか。
それは思考なのかスキルなのか、どうすればキャッチできるのでしょうか。

私は、痛みを伴うような感情や体験もありながら、見方を変えたり解釈を変えたり、リフレーム(別の視点を持たせる)するようにしてHAPPYな方を選択しています。「HAPPINESS IS CHOICE」という言葉があるのですが、これはスキルだと思っています。そのような考え方を、聞く耳も持たずに頭ごなしに否定してくるような企業や組織の中にまで浸透させて行くことが、これからの時代ますます重要になってくると思います。

家庭における男性のあり方

―家事、育児や子育ては女性の役割、という日本社会のアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)によって、今までは女性の方がキャリアを犠牲にせざるを得ない状況にありましたが、テレワークの普及など新しい働き方によって、男女共に子育てや家事を協力することにより、女性が活躍し続けられる社会作りや少子化対策にも繋がると考えられます。今はまだまだ女性に家事や育児の負担が大きくなっている状況です。

そのお話を聞いて、改めて今私がこうしていられるのは主人のおかげだとつくづく感じます。こう言うと「島田さんには理解ある旦那さんがいていいですね」って言われますが、本当にその通りです。

女性も無理をしてストレスを溜めるだけでなく、「やめる」という選択肢も考えれば良いのです。やらない決断も必要だと思います。「私は今、仕事がしたい」とか、もっと主張して良いと私は思います。もちろん男性側の理解やサポートは、絶対的にありがたいことで、それがあるから私もこうしていられるわけです。主人がどういうことを考え、どう感じながら一緒にいるのか。女性のキャリアやこれからの人生をどう考えているのかを一度機会をつくって聞く価値はあると考えています。

HAPPYの源は?

―島田さんのHAPPYの源を教えてください。

私にはいくつものHAPPYの源があります。今回の在宅勤務では、最初の2週間は本当につらくてストレスがたまる一方でしたが、「新しいものを見る」「新しい体験をする」「人と話して力をもらう」といったことが、私にとってとても大事なことだと改めて実感しました。これは私のHAPPYの源なので、その環境がない在宅勤務の状況を最初はストレスに感じたんだと思います。
そして、もう一つは「家族」です。どんなことがあっても繋がっている感覚や、この家族は自分の味方で人生のベースなんだ、といった家族がいてくれる安心感がとても大きなHAPPYの源です。

また、無理にHAPPYになろうと思わないことも大切です。「〜になる」ではなく「〜である」ということを今、感じる時間にして欲しいです。このインタビュー記事を読んだとか、何かに触れた時に少し立ち止まって「幸せである」とはどういうことなんだろう、ということを感じることがスタートだと思います。幸せの定義は人それぞれです。だからこそ自分にとって何が幸せなのかを知るということでしかスタートできないですから。まずは今という時間をチャンスにすることですね。

―最後にHAPPYに生きるための秘訣をお願いします。

方法は2つあると思っています。

まず1つ目は「自分の感情に気づく」ことです。
いつもは外側に向いている意識を、少し自分に向けてみて「今嬉しいと思ってる」とか「今ちょっとワクワクしてる」とか。逆に「今、私すごく落ちてるな」など、自身の感情に気づくということです。

そこから「自分に親切になる(Be kind to you)」ことで自分に意識を向けてあげる。特にあまり嬉しくない状態、悲しい気持ちや怒りや焦り、不安がある時こそ、それをそのまま無かったことにしないことが大切です。そういう時はまず泣く。または信頼できる人に話す。それを書き出してみることも効果的です。

2つ目は、その感情をポジティブに持っていくための方法を知ることです。
まずは「感謝」です。
寝る前に必ず3人、もしくは3つのことに今日はありがとうと感謝する。これがいちばんです。

そして体を動かすことも重要です。心と体はすごく連動していて、体を緩ませると心も開き緩むことが証明されています。

これらのことを実践していくことで、自分自身でHAPPYな気持ちに切り替えていくことができます。
まずは自分の状態に気づくところからスタートしてみてください。


2010年に「ユニリーバ・サステナブル・リビング・プラン」の目標のひとつとして「2020年までに全世界の女性管理職比率を50%まで引き上げ、ジェンダーバランスを達成する」というコミットメントを発表し、1年前倒して達成。日本においては女性管理職比率38%を実現しています。先日発表された、履歴書から顔写真や性別情報を削除する新たな取り組みも、島田さんがいるからこそ実現することができたのではないでしょうか。

今、まさに変革の時であると考えます。

【インタビュアー】 HAPPY WOMAN代表 小川孔一

「今日の当然が明日の不条理となる。」

組織は、絶えざる変化を求めて組織されなければならない。
組織の機能とは、知識を適用することである。
道具や製品やプロセスに対し、
仕事の設計に対し、
あるいは知識そのものに対し、知識を適用することである。
そして知識の特質は、急速に変化し、
今日の当然が明日の不条理となるところにある。

【未来への決断】

ピーター・ドラッカー

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島田 由香氏|ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社 取締役・人事総務本部長
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