【インタビュー】浜田 敬子氏|Business Insider Japan 統括編集長/元アエラ編集長

浜田 敬子

NEW NORMAL時代の「幸せな働き方」とは?テレワークの普及拡大は女性の働き方・生き方をどう変えるのか。

 新型コロナウイルス感染拡大に伴う「テレワーク」という働き方。そのメリット・デメリットや家族間での家事負担の課題など、これからの在宅時間拡大を見据えた重要な要素「仕事と家事の両立」に注⽬してみました。

 今後、ますます「働き方」は大きな変化を求められます。これからの時代に、女性がイキイキと働き、幸せに生きていくためのヒントとして、「働く×子育てのこれからを考える」プロジェクト「WORKO!」や「働き方を考える」シンポジウムなどをプロデュースされ、働く女性に関する執筆や提言をされてきた浜田敬子さんにアドバイスをいただきました。


浜田敬子

浜田 敬子氏

Business Insider Japan 統括編集長
元アエラ編集長

1989年に朝日新聞社に入社。99年からAERA編集部。2004年からはAERA副編集長。その後、AERA初の女性編集長に就任。その後、朝日新聞社総合プロデュース室プロデューサーとして、「働く×子育てのこれからを考える」プロジェクト「WORKO!」や「働き方を考える」シンポジウムなどをプロデュース。
2017年4月より世界17カ国に展開するオンライン経済メディアの日本版統括編集長に就任。
「羽鳥慎一モーニングショー」や「サンデーモーニング」などのコメンテーターや、ダイバーシティーや働き方改革についての講演なども行う。著書に『働く女子と罪悪感』(集英社)


―日本において「テレワーク」は、今後も定着・拡大していくと思われますか?

 緊急事態宣言発令後、なかなかテレワークが進まなかった企業でも、4月には実施が増えましたが、緊急事態宣言が解除された途端に、100%出社に逆戻りしてしまった企業もあるのが現状です。

 企業間で非常にバラつきがあって、進んでいる企業では今後も半恒久的に100%とは言わないまでも、50%ぐらいはテレワークを維持していこうという方向性も見られます。

 テレワークがなかなか定着しない企業は、実は合理的な理由があるわけではなく、上司だったり、その会社のカルチャーによるところが大きいと感じます。

 部下を管理・監視する企業や、テレワーク環境が整っていない中小企業などで定着していないのですが、このタイミングで環境を整えていくことが重要だと考えます。もちろん全てをテレワークにできなくても、オンラインでできる仕事と出社が必要な仕事を見極めて「出社と在宅のハイブリッド」「仕事内容によってハイブリッド」にする、子育てや介護中の社員がより在宅勤務を取りやすくする「子育てや介護等とのハイブリッド」というように、臨機応変に対応していく必要があります。

 女性が働く上で、企業内で様々な制度は揃ってきてはいますが、やはり実際に出社するということが大きな負担となっていることが今回改めて認識されたと思います。

 毎日の通勤時間に加えて子供のお迎えや家事時間などを加えて時間を逆算し、今までは「時短勤務」を選択していたけれども、今回のテレワークでフルタイムに戻せた、という方もいらっしゃいます。

 もともと制度があってもなかなか進まなかったテレワークですが、今回の新型コロナウイルス感染拡大の影響で、企業全体で導入せざるを得ない状況になったことで自分だけ在宅勤務を選択する罪悪感がなくなり、生産性が上がったという声もあります。

 特に若い世代は、空間と時間から自由になることを望んでいます。特にシリコンバレーなどでは、「結果をきちんと出せば、いつでもどこでも働いても良い」という考えが浸透していて、優秀な人材を採用するためにもそのような働き方を導入している企業もあります。

浜田敬子

―テレワークによってマネジメントは変わりますか?

 テレワークにおける「マネジメント」は非常に重要です。うまくいっている企業やチームは、もともとメンバーとマネジャーの信頼関係がきちんと構築されていて、在宅勤務になってもその信頼や心理的な安全性が担保され、みんな安心して働けるので結果を出すことができています。

 実際に対面ではなく、画面を通しての姿と声で判断し、モチベーションアップさせていかなければならないので、より一層マネジメント能力が問われています。この「リモート時代のマネジメント」は新たなひとつの課題となってくるのではないでしょうか。

―テレワークでは「社員や部下がきちんと仕事をしているかどうか把握しにくい」などの不安要素の声も聞こえますが、どのようにクリアしていけば良いでしょうか?

 いくつかの企業はポストコロナでもテレワークを継続していくことを発表しています。その際に同時に導入されようとしているのが「ジョブ型」という新しい雇用形態です。日本では「メンバーシップ型」という雇用形態の会社が主流です。新卒段階で一括採用して、いろんな仕事をさせながら育成していく、というスタイルです。

 「ジョブ型」とは「ジョブディスクリプション」、つまり職種や業務内容を明らかにして、その職のポジションごとに、遂行できる能力がある人を採用する形態です。ジョブ型の、「仕事内容が決まっていて、そこで結果をきちんと出せば良い」という考え方がテレワークとは相性が良いので、セットで導入しようとする企業が出てきています。

 この「ジョブ型」は、ワーキングマザーのように長い時間は働けないけれど、短時間で結果が出せる人には合っています。日本では採用時には将来の可能性を買われて採用され、仕事では結果よりプロセスや社内のその人の立場などが重視される評価制度が定着しています。今後、働き方を自由化する企業では、同時に厳しく成果を求められる時代になることも考えられます。

―テレワークには現状、地域格差がありますが、その解決法は?

 現状では都市部の方が定着しているとは思いますが、テレワークによって地方にもチャンスが拡がると考えています。地方の企業が東京在住の人材を雇うことが可能になり、また東京の企業が地方の優秀な人材を雇うことも可能になるからです。

 ある企業が「単身赴任を解消する」と発表したことがニュースになりましたが、日本企業に多くある、一見公平を重んじるように見える一律全員に全国転勤があったり、家族の事情が考慮されることのない単身赴任など、ライフイベントを断ち切られるような制度や慣習は見直されるべきだと思います。この転勤などが女性が働き続けることの障害になっているケースも多く見受けられてきたからです。

 総合職なら辞令が出れば、全国どこへでも転勤しなければならない企業に、もはや若い人たちは魅力を感じていません。そうしなければ管理職になれないのであれば、管理職にはなりたくない、とすら答えます。転勤の必要性についてはもっときちんと議論されるべき問題だと思っています。

―テレワークの圧倒的なメリットは「通勤時間」。しかし逆に仕事量が増えてしまっている状況も懸念されています。

 実際、自分できちんと時間管理をしないと、ついつい仕事をしている時間が長くなってしまうと思います。時間管理、健康管理などの「自己管理能力」がより重要になりますね。

 しかし、それを差し引いてもメリットの方が大きいと感じました。私自身、子供が帰ってきた時に家にいられたことは今までなかったし、家族全員で食事をすることも、昼間に洗濯物を取り込んだり、夕方スーパーに行ったことも初体験でした(笑)。今回のことで人生観も変わりました。

ーテレワーク下での課題として「家事・育児」があります。浜田さんのご家族ではどのように対応されていますか?

 在宅勤務で夫もずっと家にいるのに、全く家事・育児をしない。普段より妻の家事・育児負担が増えた、というデータもありましたよね。実際学校が休校の間、家事だけでなく育児も大変だったワーキングマザーは多かったと思います。

 うちは、たまたま夫の方が料理もマメにやるし、そもそもこの期間、私の方が圧倒的に忙しかった。仕事で必死になっている姿を見て、自発的に食事は夫が作ってくれるようになりました。子どもは「パパ、今日の夕飯何?」と聞くのが日課になりましたから。

 なぜここまで夫が家事ができるようになったのか、といえば、夫が私が育児休暇から復職するタイミングで3ヶ月の育児休暇を取得したのが大きかったですね。中途半端に私が手伝うのではなく、家事・育児を一旦100%夫に任せてみた。自分と違うやり方で、最初は不安や不満もあったのですが、勇気を持って100%夫に任せてみると確実に変化があリました。家事でも育児でも、最初から完璧にこなせるわけがないですし、今からでも遅くないので、ぜひ週末丸1日だけでも、家事・育児を全部任せてみるといいと思います。

 また、ワーキングマザーは、会社や上司には様々な交渉をするのだけれども、家庭で夫とはなかなか交渉できない人が多いです。我が家もどちらが家事や育児をやるのかと散々揉めてきたので、これ以上家庭内の雰囲気を悪くしたくない、という気持ちが働くのもわかります。

 ですが、私は、後輩達には「大袈裟ではなく、あなたが夫と交渉し夫を変えることが社会を変えるんだよ」と言っています。例えば、長時間労働だった男性上司が、職場で初めて育児休暇を取得したり、週に2日は早く帰ることが実現できると、後輩の男性達もとてもやりやすくなります。その職場で働くワーキングマザーたちの気持ちもわかるでしょう。

 私の夫の上司は、妻が専業主婦でしたが育児休暇を取得しました。やはりそういう人が身近にいることで、部下たちも「自分も育休を取得して良い」と思えるようになり、後輩達へ大きな影響をもたらします。

 そういった男性の行動が、時短で肩身の狭い思いをしながら働いていた女性たちの罪悪感を減らすことにも繋がり、職場環境を大きく変えることになります。

 最近では、残業規制をする企業は増えてはいますが、残業をしなくなった分、夫たちが早く帰って家事を分担しているかというとそうではなく、飲みに行っているだけという話をよく耳にします。しかし家事は誰かがやらなければならない。結局女性の家事負担は減っていないんです。

 例えば、週に1回でも2回でもいいからこの日は全ての家事・育児を「夫がする日」などと決められるといいですよね。その日に妻はもちろん家族と夕飯を食べてもいいのですが、友達と飲みに行ってもいいし、一人でお茶を飲みに行ってもいい。自分のために時間を使う。ワーキングマザーは自分のためにほぼ時間を使えないので、どんどん心身ともに疲弊していきます。目一杯時間を気にせず過ごせる日があったら、とても気持ちが楽になります。

 帰りの時間が決まっていると、朝からその時間までに仕事を終わらせなければと、わき目もふらずに働かなければならないですよね。週に1日ぐらい、終わりの時間を気にせず溜まっている仕事を一気に片付けられる日があってもいいと思います。そういう日があるだけで、自分がいつも仕事で中途半端、不完全燃焼、迷惑をかけているんじゃないか、という気持ちもリセットすることができます。そういう日を作ることは大事なことです。

浜田敬子

―女性自身が、やるべきことをやれていないと罪悪感を感じ「疲れ」が増加しているデータも

 女性たちはとても頑張っていて、もうこれ以上頑張る必要はないと思います。家族で協力しあい、定期的に掃除を「家事代行」に頼んでも良いのです。そこにかかるお金は、コストではなく「投資」。自分で自分を追い詰めることをせず、もっと自分が楽になる方法を考えたほうが良いと思います。 

 まずはしっかりと家族で話し合い、この担当は夫、などと決めてしまうのも良いのではないでしょうか。
女性がやり過ぎてしまっている背景には女性自身の「アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)」もあります。きちんとご飯を作らないといけないとか、家事を完璧にこなさなければならないといった思い込みがあるのです。でも、そうじゃない日があってもいい。お母さんが楽をすることに対して罪悪感を持ちすぎていて、「理想の母親像」に縛られているのはむしろ女性のほうではないでしょうか。

 もともと男性が認識している家事と女性が認識している家事には大きな開きがあります。料理、洗濯などざっくりした分類ではなく、朝窓を開ける/布団を干す/醤油が切れたら補充する/保育園の連絡帳を記入する、など全ての細かい家事までいちど全てを可視化して見せることで、夫に家庭を回していくにはこんなに細かい家事があるということを認識してもらう。家庭をマネージすることの大変さを理解してもらうのも効果的です。

 いきなり男性に家事やりましょう!という前に、まずは家事や育児の役割がどれくらいあるのかを明確にする。そして、せめて妻が家事をしている時は、夫もスマホを見てるのではなく、一緒に家事をしてみるなどの一歩を踏み出してみてください。

 そして可視化したリストを共有し、家族とコミュニケーションを。夫との「交渉」に臨んでみてください。「文句」ではなく「交渉」です。あくまでも交渉なので冷静に(笑)。

―「男性の育児休暇の義務化」の議論が行われていますが、どのように考えますか?

 個人的には家族の問題を法律で義務化するという方向性は、望ましいとは思いません。ただ、男性の育児休暇取得がほとんど増えていないこの現実に対して、定着するまで何かしらの強制力が時限的に必要だとは思います。

 女性管理職比率を3割にする目標が2030年まで延長される予定ですが、女性の負担を減らすための具体的なアクションがなければ、このままでは延長しても目標達成は難しいと思っています。女性の家事・育児の負担を減らすだけでなく、女性がもっとキャリアを積みたい、という内発的な動機付けをすることもとても重要だと思います。

―女性の社会進出が進むことで少子化が加速しているというジレンマもありますが

 この議論は、世界で見れば間違っていますよね。実際、フランスのように出生率が増えている国を見ると、女性が社会で活躍することと出生率の相関性はありません。女性の社会的進出をサポートする保育園のような制度が整っていたり、家事・育児の分担が進むことが必要なのだと思います。

 日本や韓国のように少子化が進行している国の特徴は、性別による役割が固定化している、ということ。女性たちは今や仕事だけでなく、家事も育児も、と負担が増大している。こうした負担をどう解消していくのか、男性の意識改革だけでなく公的な支援の充実も求められると思います。

少子化問題解決の鍵は「男性の家事・育児参加」と「経済的支援」だと考えています。

―頑張ってる女性たちへメッセージを

 何事も真面目すぎるので「人生に少し手抜きをしたほうがいい」と伝えたいです。何でも完璧にやろうと思わない、楽すること・自分を甘やかすことも大切です。

 とにかく全部、自分で背負う必要はないのです。家庭は家族全員で営んでいくものなので、誰かにだけ負担がかかってはうまくいかない。全員がそのメンバーであり、うまくやっていくためにどう運営していくかを共に考えていくことがとても重要だと思います。

 女性が働いている理由も、生活のためだけではなく、働くことが面白いし達成感もあるからですよね。家事や育児とは違う達成感があるから大変なことがあっても毎日頑張れるわけです。やはりその本質を夫や家族に理解してもらっていると、気持ち的にとても健康な状態を保てると思います。


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