女性の視点と感性は世界のマーケットを拓く
36年間に亘りインドネシアを見つめ続けてきた第一線の研究者であり、日本貿易振興機構(以下・ジェトロ)の理事、唯一の女性役員でもある佐藤さん。世界から日本はどう見られているのか? 女性ならではの可能性とは?研究者の視点と、「働く女性」「母親」の実体験から語ってくれたのは、世界と繋がって生きていく次の世代への、温かなエール。
「ジェトロ」というのはどんな組織ですか。
「一言でいえば、『日本とそれ以外の国を繋ぐ、貿易と投資を振興する国の機関』です。海外の54カ国に74の事務所を展開しています。国内にも45の事務所があり、ほとんどの都道府県に拠点があります」
現在のお仕事に就かれたきっかけは。
「高校生の頃から漠然と、男女の差がなくできる仕事に就きたいな、と考えていました。でも、就職活動で、初めて社会の壁にぶつかりました。当時は雇用機会均等法施行前で、男性しか採用枠がないというケースも多く、世間とはこんなに女性に冷たいのか、と思いましたね。その中で、縁あってアジア経済研究所に就職することができました。
入所するといきなり「あなたはインドネシア担当です!」と告げられました。当時の私は「えーと、南の方にある国ですよね」という程度の知識しかなくて(笑)。まったくのゼロからスタート。そこから36年間、インドネシア研究一筋です」
結婚・出産後も、お子さまを連れて海外で研究に従事するなど仕事を続けてこられました。
「当時は今以上に仕事と家庭を両立するのに苦労した時代でした。育児休業法もなかったですから。それでも、続けられたのは、研究という仕事が好きだからですね。あらためて自分自身を俯瞰して、「私は何をやっている時が一番イキイキしているんだろう」と考えると、出た答えが「研究」と「ディスカッション」(笑)。研究者という仕事は天職だったのだと思います。
どんな人も、「何をしている時が一番自分は幸せなのか」、それが理解できると、自分の人生に軸ができて、前向きに生きていくことができるのではないかと感じます。今、女性には色々な生き方があって迷うかもしれないけれど、自分の心の声を聞いて、その軸を見つけて欲しい。そして長い目で見て、自分が幸せだと感じられる人生設計ができばいいし、日本がそうした多様な生き方を許容できる社会になって欲しいと思っています」
世界から見た日本、というのはどう映っているのでしょうか。
「日本が好き、日本に憧れる、という海外の方はとても多いですよ。かつて私たちが海外を夢見る時に浮かべるのが欧米であったように、アジアでは「憧れの外国」が「日本」なんです。でも、10年後もそれが続くとは限らない。今、世界にポジティブに受け入れられているうちに、もっと日本の文化や産業を世界に発信するべきです。
そのためには女性が大きな鍵を握っていると思います。海外で仕事をする女性たちを見てきた実感ですが、女性は未知の世界に飛び込んで、すぐに適応できる柔軟性に優れている。そして衣食住すべてに対する関心や感度も高い。その感性を活かせば、世界のマーケットで何が求められているか、日本から何を売り込むべきか見いだせるはずです。
日本では、女性の起業家が増えています。ただ、すばらしい製品やサービスを作っても、日本人はそれをアピールするのが苦手な方が多いので、もったいないと感じます。日本から世界の市場に挑戦していく方たちの背中を押して、もっと活躍していただくサポートをしたい。それはジェトロという組織の目標であり、私個人の想いですね」
Profile
佐藤 百合
日本貿易振興機構(ジェトロ)理事
1981年上智大学外国語学部卒業後、アジア経済研究所入所。インドネシアを担当。在ジャカルタ海外研究員、インドネシア商工会議所特別アドバイザー、アジア経済研究所地域センター長を経て、2015年より日本貿易振興機構理事。
独立行政法人 日本貿易振興機構
(ジェトロ)
Japan External Trade Organization (JETRO)
貿易・投資促進と開発途上国研究を通じ、日本の経済・社会の更なる発展に貢献することを目的とする独立行政法人。「対日直接投資の促進」、「農林水産物・食品の輸出支援」、「中小・中堅企業の海外展開の支援」、「情報提供・調査研究を通じた企業活動や通商政策への貢献」を事業の柱にしています。