「キャリアを築くには、良い会社に入ることが大切」――そんな価値観は、今も決して間違いではありません。けれど、組織開発の仕事を通じて多くの企業や働く人と出会う中で、最近強く感じることがあります。それは、キャリアを長く、自分らしく歩み続けている人ほど、会社以外にも「居場所」を持っているということです。
皆さんには、会社の外に、本音で話せる場所がありますか?
私は現在、企業向けの学習コミュニティの企画・運営に携わっています。業界も役職も異なる人たちが集まり、組織づくりやマネジメントについて学び合う場です。運営していて興味深いのは、参加者の皆さんが最も生き生きと話しているのが、講義の時間ではないということです。休憩時間、終了後の雑談、懇親会。「うちも同じです」「その悩み、私もありました」――そんな何気ない会話の中で、参加者の表情がふっと柔らかくなる瞬間を、私は何度も見てきました。
知識を持ち帰ること以上に、「同じ問いを持つ仲間がいる」と知ること。それが、人を前に進める力になるのだと感じています。
働く女性には、「安心して弱音を吐ける場所」が少ない
働く女性は、とりわけ多くの役割を抱えています。仕事ではマネージャーやリーダー、家庭では母、娘、パートナー。昇進、異動、育児、介護、転職――ライフイベントのたびに環境は変わり、人間関係も何度もリセットされます。そのたびに、「これでいいのだろうか」と立ち止まる瞬間があるのではないでしょうか。
会社には研修や上司との面談があっても、「本音を安心して話せる相手」がいるとは限りません。だからこそ、会社の外にも「この人に相談してみよう」と思える関係性があることが、働き続ける支えになるのだと思います。
つながりは、キャリアを支える「資産」になる
この感覚には、学術的な裏付けもあります。政治学者のロバート・パットナムは、人とのつながりがもたらす価値を「社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)」と呼びました。また、教育理論家のエティエンヌ・ウェンガーは、同じ課題を持つ仲間との対話を通じて人は学び続けるという「実践共同体(コミュニティ・オブ・プラクティス)」の考え方を提唱しています。私がコミュニティの現場で見てきたことは、まさにこの理論そのものでした。
コミュニティの価値は、「教えてもらうこと」ではありません。一緒に考えてくれる人がいること――その存在そのものが、人の挑戦を支えるのだと思っています。
コミュニティマネージャーとして大切にしていること
私が場づくりで意識しているのは、コンテンツ以上に「人と人が自然につながる余白」を設計することです。初めて参加した人が安心して話せること。立場を越えて本音を話せること。「今度、この人に相談してみよう」と思える関係が生まれること。プログラムの内容だけでなく、場の空気や対話の流れ、一人ひとりの表情まで意識しながら場をつくっています。
同じテーマでも、参加者が違えば、まったく違うコミュニティになります。だからこそ私は、コミュニティは運営者がつくるものではなく、その場に集まった人たちとの共創によって育っていくものだと考えています。
「今日、初めて会社以外の人に話しました」
コミュニティの価値を確信した出来事があります。ある企業で社内コミュニティイベントを実施したときのことです。イベントが終わり、参加者同士が自由に話していた時間に、一人の女性が少し迷いながら私のところへ来て、小さな声でこう話してくれました。
「今日、初めて会社以外の人に、この話をしました」
管理職になって数年。期待される立場になればなるほど、「弱音を吐ける場所」がなくなっていったそうです。会社では部下を支える側、家庭では母親。「相談されることはあっても、自分が相談する相手がいないんです」――そう話す彼女の表情は、どこか張りつめていました。
でも、その日のコミュニティには、同じように管理職として悩む女性たちがいました。「それ、私も経験しました」「私はこんなふうに乗り越えました」。誰かが正解を教えたわけではありません。ただ、自分の経験を話し、お互いの言葉に耳を傾けただけでした。帰り際、彼女は笑顔でこう言いました。
「今日は答えをもらえたわけじゃない。でも、『私だけじゃなかった』と思えました。また明日から頑張れそうです」
私はこれまで、キャリアコンサルタントとして数多くのキャリア相談に向き合い、現在は組織開発やエンゲージメント向上、対話の場づくりに携わっています。その経験を通して感じるのは、人は「正しいアドバイス」で変わることよりも、「安心して自分の言葉を話せる関係性」の中で変わることのほうが、ずっと多いということです。
あの日、私が確信したのは、コミュニティとはイベントではなく、「ここなら話してもいい」と思える関係性を育てる営みなのだということでした。
キャリアは、「誰と歩むか」でできている
終身雇用が当たり前ではなくなり、働き方も多様化した今、会社は大切な居場所であり続ける一方で、それだけに自分のキャリアを預ける時代ではなくなりました。だからこそ、会社の外にも安心して立ち戻れる場所があることには、大きな意味があります。
それは、転職のための人脈ではありません。誰かと比べる場所でもありません。肩書きを外して、「今の自分」でいられる場所です。
私はこれまで、コミュニティの中で人の人生が動く瞬間を、何度も見てきました。だからこれからも、イベントを企画するのではなく、人と人との間に「また会いたい」「また話したい」が生まれる場をつくり続けたいと思っています。
キャリアは、「どこで働くか」だけで決まるものではありません。誰と歩むか――その関係性こそが、人生の節目で何度でも立ち戻れる「もう一つの居場所」となり、働き続ける力を支えてくれるのだと、私は信じています。
もし今、少し立ち止まっているなら、会社の外にある扉を小さくノックしてみてください。「私だけじゃなかった」と思える出会いが、きっとあなたの明日を支えてくれるはずです。
【記事】吉原 麻衣(組織開発支援・コミュニティマネージャー/国家資格キャリアコンサルタント)
ISO30414リードコンサルタント・アセッサー、米国CCE, Inc. GCDF-Japanキャリアカウンセラー。人材業界での法人営業・キャリア支援を経て、現在は組織開発、エンゲージメントサーベイの活用、人材育成に従事。社内外でのコミュニティ運営やDE&I、女性活躍推進プロジェクトの経験を活かし、組織やチームの対話をデザインする研修や、大手企業を中心とした組織づくりを支援している。






















































