職業選択は、自分と向き合う機会になる
先日、若者のキャリア支援を行うNPO法人が主催するイベントに、キャリアコンサルタントとしてボランティア参加してきました。
そのイベントは、定時制高校の生徒が「自分の進路を具体的に考え、意見を交わすこと」を目的に、「働く」をテーマとして社会人と座談会を行うという内容です。
私は数名の高校生の輪に入り、ファシリテーターとして、生徒たちに将来についてや今考えていることを話してもらいました。
・「自分はこれが得意っぽいから、この仕事をしようと思っている」
・「この職種がいいけれど、雇用条件はあまり良くなさそう」
・「自分に合う会社って、どうやって見つけるの?」
など、自分の進路についての思いや悩みを、素直に言葉にしてくれました。
座談会では、社会人が自身の経験を共有し、それに対して生徒が質問するという対話を通じて、就職への不安を和らげたり、進路をより具体的に考えるヒントを提供したりしました。
私たちが職業選択をする際、仕事内容や雇用条件などの情報収集ももちろん重要ですが、それ以前に「自分自身と向き合うこと」が欠かせません。
自分がどんな人間なのかを理解していないと、何にやりがいを感じるのかが分からず、やりがいのない仕事を続けることは困難になるでしょう。
「自己概念」と「自己実現」の関係性
臨床心理学者カール・ロジャーズは、人間の内面を理解する上で「自己概念」という考え方を提示しました。
「自己概念」とは、自分自身が認識している性格、能力、身体的特徴などに関するイメージのことです。
たとえば「自分は内向的な性格だ」「私は人前で話すのが得意」「自分の容姿にあまり自信がない」といった認識がそれに当たります。
この「自己概念」は、幼い頃から現在に至るまで、家族・親戚・教師・友人などから受けてきた反応や評価、他人との比較、成長過程でのさまざまな経験を通じて、少しずつ形成されていくものです。
ロジャーズは、この「自己概念」が「自己実現」を目指す過程で非常に重要な役割を果たすと述べています。
なぜなら、「私はこういう人間である」という自己認識が、「自分はこう振る舞うべきだ」といった思考や行動の判断基準になるからです。
自己実現とは、「自分の潜在能力を引き出し、自ら成長していこうとすること」であり、ロジャーズはそれが人間に本来備わっている性質だとしています。
たとえば、「自分は何にでも努力できる」といった肯定的な自己概念を持っている人は、未知のことや困難なことにも積極的に挑戦し、自己実現の可能性を広げていけるのです。
「自己一致」と「不一致」がもたらすもの
ロジャーズは、「自己概念」と実際の「経験」がどの程度一致しているかを重視しました。
この一致の度合いが高い状態を「自己一致」、低い状態を「不一致」と呼びます。
たとえば「自分は文章を書くのが得意だ」という自己概念を持っている人が、満足のいく文章を書けたり、周囲から良い評価を受けたりしたときは、「自己概念」と「経験」が一致しており、達成感や幸福感を得られます。
一方、「自分は人前で話すのが得意だ」と思っている人が、緊張してうまく話せなかったり、周囲の反応が期待はずれだったりすると、「自己概念」と「経験」にズレが生じます。この「不一致」が繰り返されると、劣等感や不安、ストレスを感じやすくなるのです。
仕事においても、「自己概念」と「実際の仕事経験」の重なる部分が大きいほど、達成感ややりがいを感じやすくなります。さらに、他者からの評価が自分の自己概念と一致してくると、より感情や思考が安定していくでしょう。
「自己概念」と向き合うことから得られるもの
「不一致」の状態を「自己一致」に近づけるには、時に「自己概念」の見直しが必要な場合もあれば、実際の行動やアプローチを変える必要がある場合もあります。
不一致が起こったときに、どのように改善できるかを前向きに考えることで、ネガティブな感情とも上手に向き合えるようになります。
また、否定的な自己概念を持っていることが必ずしも悪いこととは限りません。
それがあるからこそ、事前に十分な準備をしたり、努力を重ねたりすることで、望ましくない結果を回避できることもあるのです。
つまり、「自己概念」とどのように付き合っていくかが大切であり、そこに自己成長の可能性が広がっていきます。
そう考えると、あらためて自分自身と向き合い、「自己概念」を知ることは、「自分らしさ」を育てることにつながっていくのではないでしょうか。
新卒からアパレルメーカーにて勤務。販売職にて接客サービスを学んだ後、人事として採用・配属・教育・評価など幅広く携わる。人事歴は17年。2024年国家資格キャリアコンサルタント取得。二児の母。