変わる社会、進まない法改正
日本の夫婦同姓義務は、法制度上でも文化的にも特異なケースです。この点で、ジェンダー平等や個人の権利の観点から国際的な批判が続いています。
国連の勧告4回目、日本への厳しい視線
国連の女性差別撤廃委員会(CEDAW)は、2003年、2009年、2016年、2024年の計4回にわたり、日本に対して選択的夫婦別姓制度の導入を強く勧告してきました。この制度がないことは、女性の社会的・職業的アイデンティティに不利益をもたらし、ジェンダー平等を妨げる要因として指摘されています。国際的な人権基準から見ると、日本の現状は著しく遅れていると言わざるを得ません。
CEDAWは、2024年の最新勧告においても、日本の夫婦同姓義務が性差別的であると明言し、制度改革を求めました。しかし、これまでの勧告に対する日本政府の対応は消極的で、法改正の実現には至っていません。
日本における夫婦同姓制度の歴史的背景と現状
日本の夫婦同姓制度は、1898年に施行された旧民法による「家制度」にルーツがあります。この制度では、家父長制を基盤に家族の姓を統一することが重視され、夫婦同姓が義務付けられました。戦後の1947年に家制度は廃止されましたが、夫婦同姓の規定は現行民法に残されています。
現在、日本の民法第750条では、結婚した夫婦は同じ姓を名乗る必要があります。このため、夫婦別姓を希望する人々は事実婚を選ぶしかありませんが、事実婚では法的保護が不十分で、特に財産相続や子どもの親権問題において不利益を被るケースがあります。こうした状況は、社会の多様化やジェンダー平等の推進を妨げる要因となっています。
国際社会との比較で浮かび上がる日本の特異性
世界的に見ると、夫婦同姓を義務付ける国は日本以外に存在しません。多くの国では、夫婦が結婚後に同姓、別姓、あるいは新しい姓を選ぶ自由が認められています。
欧米諸国では、アメリカ、カナダ、イギリス、フランスなどが柔軟な選択肢を提供しています。女性が旧姓を保持することも一般的です。
アジア諸国では、韓国、中国、ベトナムなどで夫婦別姓が慣習として根付いています。特に韓国では法的に別姓が基本とされ、ジェンダー平等の観点から進んだ制度設計がなされています。
国際的な基準から見て、日本の夫婦同姓義務は例外的であり、この点で国連や他国からの批判が集まっています。
変わる社会、進まない法改正
近年、日本国内でも選択的夫婦別姓の導入を求める声が高まっています。2023年の内閣府調査によれば、約70%の国民が選択的夫婦別姓に賛成しています。特に若年層や都市部において支持が顕著で、多様な価値観が広がりつつあります。
一方で、政治の場では保守的な価値観が根強く、一部の反対派は「家族の一体感が失われる」「伝統が崩れる」といった理由で導入に反対しています。この対立構造が、制度改革の遅れを招いています。
幸せな未来へ向けて選択的夫婦別姓制度導入の意義
選択的夫婦別姓の導入は、以下の点で重要な意義を持ちます。
個人の尊厳と選択の自由の保障
自分の名前を選ぶ自由は、個人のアイデンティティを尊重する基本的な権利ではないでしょうか。
ジェンダー平等の推進
現行制度の下で、不利益を被るのは主に女性です。この制度を見直すことは、ジェンダー平等社会の実現に向けた重要な一歩となります。
国際的信用の向上
日本が国連の勧告に応じて法改正を進めることで、国際社会からの信頼を得ることができます。
幸せな未来に向けて、社会全体が多様な価値観を受け入れる柔軟性を持ち、法改正を進める必要があります。選択的夫婦別姓制度の実現は、個人の権利を守りつつ、時代に即した社会を構築するための鍵となるでしょう。
多様な意見が交錯する選択的夫婦別姓制度
以上のように、日本における選択的夫婦別姓制度を巡る議論は、歴史的背景や社会的価値観の多様性を映し出しています。一方では、個人の権利やジェンダー平等を求める声が高まる中、結婚後も自分の姓を保ちたいという願いが支持されています。他方で、家族の一体感や伝統を重視する意見も根強く存在し、これが法改正の進展を妨げる一因となっています。
選択的夫婦別姓は、全ての夫婦が別姓を強制されるものではなく、あくまで選択肢の一つです。そのため、異なる考え方を尊重しながら、柔軟な制度設計を模索することが求められています。多様性が広がる現代社会において、一人ひとりの選択を認める制度を構築することが、日本がさらなる共生社会を目指す鍵となるでしょう。
この議論を通じて、制度そのものだけでなく、家族や社会のあり方について深く考える機会が広がることを期待したいものです。