日本初の官僚系YouTubeチャンネル
「BUZZ MAFF(バズマフ)」をバズらせた影の立役者
新型コロナウイルス感染が拡大し、暗いニュースが多かった3月。人々を笑顔にし、大きな話題となった農林水産省の公式YouTubeチャンネル「BUZZ MAFF(バズマフ)」。日本初の国家公務員YouTuberとして農林水産省職員自らが担当業務にとらわれず、その人ならではのスキルや個性を活かし、農林水産業、農山漁村の魅力を発信するこのプロジェクト。江藤拓大臣からの声かけからスタートし、農林水産省の全国の職員たちを巻き込み、見事に形にした陰の立役者、大臣官房広報室の松本 純子氏にお話を伺いました。
農林水産省 大臣官房広報評価課 広報室2000年入省。地方農政局(4か所)を経て、本省勤務。米政策、食育政策担当、報道室での閣議後大臣会見担当後、現在は広報室にて日本初の官僚系YouTubeチャンネル「BUZZ MAFF」の立ち上げから運営まで従事。フードアナリスト、野菜ソムリエなどの資格も取得、週末農業NINO FARMの活動など業務外での食に関わる情報発信も積極的に続けている。
1.ご経歴と現在の職務内容について教えて下さい。
入省後、地方での仕事(4か所)を経て、現在、農林水産省大臣官房の広報室に在籍しています。広報室は、農林水産業に関わるあらゆる施策や国民に必要な情報を、最適な形で発信する役割を担っているとても責任のある仕事だと思っています。
私はその中で、省公式SNSの担当をしています。近年はインターネットなどによるデジタルな情報発信が増加しており、TwitterやFacebookはもちろん、日々細分化していく情報発信の動きに順応していかなければなりません。
その中で大きく試みた取り組みが「日本初の官僚系YouTubeチャンネル BUZZ MAFF」です。昨年秋に就任した江藤大臣の「YouTube流行ってるね。挑戦してみては」との声かけで、私がその担当となり、事前ヒアリングからマニュアル作り、運営まで従事しています。職員自らがYouTuberとなり、日本の農業の魅力を発信するプロジェクトは、これまで地方を5か所勤務し、農水省職員の面白さや仕事への志の強さを感じていましたし、何より「日本の農業は宝の山だ」と信じていたからこそ実現できたのかもしれません。
2.「農業における女性活躍」はどのような状況でしょうか?
BUZZ MAFFの中でも農業女子を取り上げた動画がいくつかあるように、農業における女性の活躍は目覚ましいものがあります。令和元年のデータでは農業従業人口のうち45%が女性となっていますが、もっと増えて欲しい!と思っています。私のよく知る農業女子達は、積極的に町の特産品作りや直売所の運営アイデアなどを出していたり、商品のロゴを自作のイラストでおしゃれに作ったり、子育てしながらできる環境作りにも取り組んでいます。
ただ、私が1点気になったのが、田舎ではたまに「女性が前に出るな」的な風潮が残っている地域があるところ。これは、意識を変えなければ中々難しいものです。
農林水産省には「農業女子プロジェクト」というものがありますが、これは、女性農業者の知恵と企業の技術を結び付け、新たな商品やサービスの開発を進める取り組みであり、社会全体での女性農業者の存在感を高め、意識の改革を促すとともに、若い女性の職業の選択肢に「農業」を加えることを目標としています。7年目を迎えたこのプロジェクトの役割はまだまだ大きいと思います。
3.「SDGs×食品産業(農業)」なぜSDGsに取り組むのか?
SDGsのほとんどは食や環境など私たち農林水産省が関わる問題が多いと思います。以前、食育基本法の策定に携わる業務をしていたのですが、その考え方として食育は3つの柱から成り立っていると説明されていました。
「①食を選ぶ力を身につける」
「②伝統文化を継承する」
「③地球規模で考える」
私が業務を担当していたころは「食育=子供たちへのもの」と思われることが多かったのですが、今もそれは大きく前進しているとは思えません。ただ、SDGsが世界一丸となり守るべき目標となった現在、この3つの柱とSDGsはかなり繋がっていると思います。
「地球規模で考える」ということは、食はもともと私達のライフスタイル全般に関わっており、農業がもつ多面的機能は、地球規模の意味を持つということですので、全ての農家はその地球規模のことを守ることにつながっているともっと自信を持って欲しいし、周りもそう理解して欲しいと思うのです。
4.ポストコロナからの農業や食品産業の未来は?
新型コロナウイルスの感染拡大により「食」の概念や向き合い方ががらりと変わりました。「これまでは『どこで』食べるのかが一つのステータスでした。写真映えのする料理をおしゃれなテラスのカフェで食べる、とか有名ホテルで食事をする、それが価値として見出されていたところがあったかと思います。でも、今は『何を』食べるのかが大事なポイントになってきたと感じています。
テイクアウトするにしても、〇〇さんの〇〇産地の食材を使った料理、ECサイトでも「来客の減ったレストランを救済するため」「観光激減で生産者さんを応援するため」の食材など、多くの人が食を通じて誰かを救うことができる、応援することができると気が付いた。食べることで生産者、調理人、配達する人、お店の店員など食に関わる様々な人たちを応援できる。食は今まで当たり前の存在だったかもしれませんが、わたしもそうではなかったと改めて気づかされました。
コロナで暗いニュースが多い中、BUZZ MAFFを見た視聴者が「花を買って、部屋に飾ることで誰かを応援することができるんだ」「牛乳を飲んだら生産者の応援につながるんだ」と共感してくれたことも、食への向き合い方の変化のひとつとだと思います。
また、大手旅行会社のJTBと提携し、新型コロナウイルスの影響で仕事が減った観光業界の人たちに、副業として担い手不足に悩む農業の現場で働いてもらう、新たな取り組みを始めることになったり、農業の役割は日々大きくなっていると感じます。
5.ご自身のHAPPYの源は?
大好きな料理と、週末農業がHAPPYの源です。週末農業NINO FARMは、埼玉県の草加市へ拠点を移し、総務省や文部科学省など、他省庁の人たちも一緒に野菜を作る次なるステージへと移りました。男女で楽しく汗を流しています。
6.女性がイキイキ働く・生きるために必要だと思う事は?
今の職場は、リーダーシップのある上司や周りの人たちに恵まれており、むしろ女性であることに全く違和感もなく働けていると感じています。もし、今まで女性が働きづらい環境があったとしたら、それは「伝える」という部分が少なかったのかもしれません。
今は発信する者と受け取る者が非常に近い時代になってきました。「総菜は手抜き」という投稿がされるとそれにすぐ反論する方がいたり。女性を応援してくれる投稿もたくさん見られるようになったからこそ、私自身も「もっと頑張っていいんだよ」と背中を押されることもあります。
7.最後に読者へのメッセージをお願いします。
「一食一食を大切に」をモットーとしているので、それが周りにも伝わればと思っています。食をひとつひとつ追っていくと、そこから垣間見られる文化や流行、人々の思いなど様々なストーリーを感じます。それらを知ることは、現場のニーズを汲み取り、時代の変化を見通すとても大事なことだと思います。
【編集後記】
この「BUZZ MAFF」で注目すべき点は、発信している内容や出演者だけでなく、農林水産省職員たちが積極的に活動するようになったその経緯。霞が関でも特にお堅い官庁のイメージが強いこの農林水産省にて、なぜこのような新たな文化を作り上げることができたのか。
そこには、このプロジェクト推進のきっかけとなった江藤拓大臣の判断力と柔軟性、そして、担当者として懸命に行動した松本氏の「巻き込み力」がある。これは省庁だけでなく、「部下のモチベーションが低い」「積極的に行動しない」などの悩みを抱える企業の管理職やリーダーも見習うべき重要なポイントではないだろうか。
「マニュアル」文化が定着している組織において、その「マニュアル」を逆手に取り、みんながアクションしやすい仕掛けを作った松本氏。YouTuberとは程遠い存在と思っていた霞ヶ関の職員が、年齢も性別も関係なく、このようにチャレンジし、話題性を作ることができた。
積極的に行動し、組織が一丸となっていくその過程が素晴らしい。
HAPPY WOMAN代表
小川 孔一