栄養や健康の話になると、「カロリー制限」「もっと運動しなければ」——そんな“制限”や“〜しなければ”に意識が向きがちです。けれども、実はそれこそが【続かない理由】なのかもしれません。
そんな中で、私がいま栄養・健康の現場で強く感じているのが「推し活」の力です。
日々の栄養相談や健康指導の場でも「推しができて痩せた」「キレイになったと言われる」「推し活をやめてから無意識に体重が増えた」などの声は珍しくありません。
そして、かくいう私自身も“推し活ウェルネス”の実践者です。
今回は、推し活がもたらす“ウェルネス”について考えてみたいと思います。
推し活がもたらす健康・行動変容の力
あなたの周りにもいませんか? 推しができたことで、以前より快活になったり、肌に艶が出たり、服装が変わったり、ダイエットに成功したりする人。
その背景には、「もっとキレイになりたい」「元気でいたい」という“前向きな原動力”があります。
人が行動を変える段階を“行動変容ステージ”と呼びます。理論によれば、「まだ行動する気がない段階」から「少し意識し始める段階」、「準備をして実際に始める段階」、そして「習慣化の段階」へと、気持ちと行動が段階的に進んでいくとされます。
推し活によって「自分磨きを始めた」「体調管理を意識するようになった」といった変化が自然に起こるのは、この行動変容ステージが進んだ証拠。
自覚しないうちに、推しの存在が健康習慣やライフスタイルにポジティブな変化をもたらしているのです。
ホリスティックヘルスの視点——crowding outのすすめ
最近の調査でも、“推し活”をしている人は、していない人に比べて日々の満足度や幸福度が高いという結果が出ています(HAKUHODO HUMANOMICS STUDIO / オシノミクスレポート※)。
こうした“幸福感”や“ときめき”は、健康行動にも大きな影響を与えます。
ホリスティックヘルスの考え方の一つに“crowding out(クラウディング・アウト)”というアプローチがあります。
これは「悪い習慣を無理にやめようとするのではなく、良い習慣を“足して”いくことで結果的に悪習慣が自然と薄れていく」というものです。
たとえば、夕食後につい間食してしまう場合、「間食を我慢しよう」と意識するほど反動やストレスが増してしまいます。
そこで「夕食後に推しのライブ映像を観てひと踊りする」といった、楽しく前向きな習慣を取り入れてみる。すると“間食”への意識が自然と薄れ、気がつけば以前より健康的な生活が身についている——そんな体験は珍しくありません。
この“crowding out”の発想は、健康行動の「楽しさ」や「自分らしさ」を大切にするうえで非常に有効です。
推し活はまさに、健康的な行動を“我慢”ではなく“自然な流れ”に変える新しい健康の土台になり得るのです。
“自己理解”が深まる——好きの因数分解
推しへの「好き」や「憧れ」を、一度“因数分解”してみてください。
ただ遠くから眺めるだけでなく、「なぜ自分はこの人(モノ)に惹かれるのだろう?」と問いかけてみると、その中には本来の自分が求めている価値観や目標、夢が隠れています。
たとえば私にとっての推しには、諦めない姿勢、努力し続ける強さ、他者への思いやり、自己表現の自由さなど、“本来こうありたい”という理想が詰まっています。
“いいな”と感じるポイントを丁寧に見つめることは、自己理解の一歩であり、「どう生きたいか」「どんな人生や健康観を大切にしたいか」を見つけるヒントにもなるのです。
推し活の落とし穴と健やかな付き合い方
ただし「推しがいればすべてOK!」というわけではありません。
推し活を理由に、しんどい環境や本来向き合うべき課題をごまかし続けてしまうこともあります。最初は楽になっても、本質的な解決にはならない——そのことは心に留めておく必要があります。
「推しは尊い」けれども、人生の主人公はあくまでも“自分自身”。
推しは私たちの背中を押してくれる“きっかけ”や“追い風”であり、「推しに誇れる自分でいたい」という気持ちや、自分で舵をとる勇気こそが、人生を本当の意味で豊かにしてくれるのだと思います。
さいごに
健康や栄養の“正しさ”だけでは、人はなかなか行動に移せません。
本当に人が変わるときには、「〜しなければ」ではなく「やりたい」という主体的な心の動きがあります。
推し活から生まれる“ときめき”や“楽しさ”は、その新しい一歩を自然に後押ししてくれるのです。
それこそが“推し活ウェルネス”の力。
あなたの「好き」も大切な個性です。どうか遠慮なく大事にしてください。
「楽しい」「好き」を味方にしながら、あなただしいウェルネスを育てていきましょう。
※参考;HAKUHODO HUMANOMICS STUDIO /オシノミクスレポート
(https://www.hakuhodo.co.jp/humanomics-studio/assets/pdf/OSHINOMICS_Report.pdf)
【記事】金子 祥子(管理栄養士・ホリスティックヘルスコーチ)
クリニックでの栄養指導や行政でのフレイル予防支援に携わり、未来志向で心と体の健康づくりをサポート。「本来持つ可能性を開花させ、人生を全うする人を増やす」ことを理念に、多方面において活動している。