みなさん漫画はお好きですか?漫画好きの精神科医、小林です。
私の息抜きは、漫画を読んでいるときに「このセリフ、あの患者さんに響くかもしれないな」と思ったシーンをメモ帳に保存していくこと。そんな私が最近読んだ作品をぜひ皆さんにご紹介したいと思います。
与えられた個性で、どう戦いますか?
学園青春少年漫画の多くが、「みんな違ってみんないい」というメッセージを体現し、それぞれのキャラクターが個性を持って、ぶつかり合い、支え合いながら成長していく姿に心を動かされます。
今回はその【個性】をより際立たせて描いた『僕のヒーローアカデミア(ヒロアカ)』(堀越耕平/集英社)をご紹介します。
デク──「無個性」から始まるヒーローへの道
主人公の緑谷出久(デク)は、超能力「個性」を持つのが当たり前の世界で、「無個性」として生まれました。
幼いころからヒーローに憧れ、ノートに分析を重ねてきたものの、「個性」(能力)がないという現実は厳しく、それは進路選択にも大きな影響を与えます。
そんな彼に、ある日、憧れのNo.1ヒーロー・オールマイトがこう告げます。
「君はヒーローになれる」
この一言をきっかけに、デクの人生は大きく動き出します。
ただし、それは「個性をもらったから、すぐにヒーローになれた」という単純な話ではありません。
そもそも彼が個性を受け継ぐことになったのは、「能力の有無にかかわらず他者を助けようとする利他的な心」が、オールマイトの心を動かしたからでした。
そして、ようやく手に入れた力を自分の体に馴染ませ、使いこなすためには、血のにじむような努力の日々が待っていたのです。
かっちゃん ──「強さ」と「弱さ」が隣り合わせの存在
私が大好きなキャラは爆豪勝己(かっちゃん)です。
成績も戦闘能力もトップクラス、派手で力強い個性を持ち、誰が見ても「持っている側」の人間です。
でもそんな彼は、無個性で弱いデクを強くライバル視しています。
その背景には、デクの「諦めない姿勢」や「人を思いやる心」など誰よりもヒーローらしい姿に、焦りや嫉妬、そして罪悪感が見え隠れします。
**強く見える人も、実は、自分にしか見えないプレッシャーや劣等感を抱えている、**そんなことに気づかせてくれる描写でした。
とくに、すごく感動的なシーンでめちゃくちゃダサいヒーローネームを発表するくだりや、愛想がなさすぎてアンチが湧くといった点は、人間臭くて本当に大好きです!
(ダサいヒーローネームの詳細は、ぜひ本編で!)
ルミリオン──“ハズレ個性”を最強に変えた男
通形ミリオ、通称ルミリオンの個性「透過」は、体を壁や地面にすり抜けさせるという能力ですが、制御を間違えると呼吸も視界も失い、地中に埋まってしまうことすらある、非常に扱いづらい力です。
「僕はね、この“透過”って個性、最初は“ハズレ”だと思ってたよ」
と彼は語っています。
それでもルミリオンは、地道な訓練を積み重ね、自分の力を理解し尽くし、独自の戦闘スタイルを築き上げ、「最強の生徒」と呼ばれるまでの実力者になります。
「選べないもの」と、どう向き合うか
生まれた環境や特性、うまくいかない経験や失敗ー私たちは人生で「選べないもの」「変えられないもの」に直面する場面がたくさんあります。
けれど、『僕のヒーローアカデミア』のキャラクターたちは、それらを「不利な条件」としてではなく、「自分が磨くべき武器」として受け止め、向き合っていきます。
他人と比べられて否定され、嫉妬や羨望を他者への攻撃へと変えるヴィラン(敵)たちとは対照的に、ヒーローたちは、自分に与えられたものをどう使って他者を救うかというスタンスを持ち続け、より強く成長し、自分の限界を超えていきます。
「違うからこそ、価値がある」
見た目も性格も、強さも弱さもバラバラなキャラクターたち。「あの人だからできたんでしょ」「自分には◯◯がないから」と、諦めることは簡単です。
一見すると不利に見えるルールやハンデであっても、自分だけの勝ち筋を探して進んでいく。
それもまた、人生というゲームの醍醐味なのではないでしょうか。
誰もが、誰かのヒーローになれる。
「変えられないもの」に目を向けて苦しんでいる人、他人と比べて落ち込んでしまう人に、ぜひ読んでいただきたい作品です。
そして、『僕のヒーローアカデミア』のファンになった方は、現在開催中の原画展に是非足を運んでみてください!
崎で生まれ育ち、関東で急性期、依存症、睡眠、児童等精神科医療を幅広く学ぶ。医学×工学×芸術のコラボと人の行動変容に興味を持ち、大学病院で臨床・研究・教育に携わる。プライベートは食と猫と漫画に嗜癖傾向あり。