森永製菓が考える、個を活かす組織づくりとは。
Interview:小川孔一(HAPPY WOMAN代表)
3月8日の国際女性デーを機に、企業におけるジェンダー平等やD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)への関心が高まっています。制度整備や数値目標の議論が進む一方で、D&Iをどのように経営の中核に位置づけるかは企業ごとに異なります。本インタビューは、同社が展開する「Morinaga Gempower Week※」のスタートを飾る企画として発信されるものです。
森永製菓株式会社の代表取締役社長 COO 森信也氏は、D&Iを単なる取り組みや施策ではなく、「経営そのもの」として捉えています。研究開発の現場から経営のトップへと歩んできた経験を通して語られた、組織を強くするための考え方を伺いました。
※Morinaga Gempower Weekについてはこちらをご覧ください。
D&Iの定義は「一人ひとりの個を活かすこと」

森社長は、企業のパーパス(存在意義)を実現するうえで最も重要なのは「人」だと語ります。
「パーパスを実現するためには、人が最も重要です。人的資本の中でも、一人ひとりの個を活かすことが何より大切だと考えています。私たちはD&Iを、『一人ひとりの個を活かすこと』と定義しています」
D&Iは、多様な人材を集めること自体が目的ではありません。それぞれの個性や価値観が活かされ、能力を発揮できる環境を整えることこそが本質であり、ジェンダー平等の取り組みもその一環として位置づけられています。
「違いの掛け合わせ」がイノベーションを生む
森社長がD&Iの重要性を強く認識するようになった背景には、研究開発部門での経験があります。異なる技術と技術、異なるモノとモノの掛け合わせが新しい価値を生むように、考え方や経験が違う人と人の掛け合わせがイノベーションを生むという考え方です。
「研究所にいた頃から、異なるものの掛け合わせがイノベーションを生み出すと言い続けてきました。これは人でも同じで、多様な人材が協働することで、新しい価値が生まれると考えています」
近年は、企業同士が競い合うだけでなく、異業種連携などを通じて共に価値を創り出す「共創」の重要性も高まっています。こうした変化の中で、組織内部においても多様な視点を活かす仕組みづくりが求められています。
女性の活躍を阻んできた構造への問題意識

長年企業に身を置く中で、森社長は、優秀な女性人材が結婚や出産を機にキャリアを継続できない状況を数多く見てきました。その経験が、多様性を経営課題として捉える現在の姿勢につながっています。
「当時は結婚や出産を機に退職される方が多く、優秀な方が多いのに非常にもったいないと感じていました」
研究所長時代には一度退職した女性研究員に復帰してもらい再び活躍してもらった経験もあります。
また、妊娠中の海外出張をめぐる判断において、男性管理職と女性管理職で視点が大きく異なった経験や、役員会の男女構成を女性役員から「逆の立場で考えてみてはどうか」と指摘された経験など、多様な視点が意思決定に不可欠であることを実感する出来事もありました。
問うべきは「なぜ手前で躊躇してしまうのか」
当社で行ったアンケートの結果から、女性の昇進意欲が男性に比べて低いという傾向が見られます。特に30代から40代は、ライフイベントとの両立を前に不安や葛藤を抱えるケースも少なくありません。
一方で、実際に管理職に就いた女性は、それぞれの持ち味を発揮し、しっかりと成果を上げています。
「そうであるならば、私たちが向き合うべきは『なぜ手前で躊躇してしまうのか」という点です。安心して挑戦できる環境を整えることが、企業としての責任だと考えています。』
ロールモデルの可視化、対話の機会づくり、そして挑戦を後押しする風土。構造を変えることが、この可能性を開くカギになります。
組織を強くする「健全なコンフリクト」
D&Iが機能している組織の特徴として、森社長が挙げるのが「健全なコンフリクト」です。ここでいうコンフリクトとは、対立や衝突ではなく、より良い意思決定のために互いをリスペクトした上での建設的な意見の交換を意味します。
「目的に向けて必要なのは、健全なコンフリクトです。そして、その土台になるのが心理的安全性です。忖度なく議論できる風土をつくることが重要だと考えています」
日本企業では、上下関係や“和”を重視する文化から、意見を言いにくい空気が生まれやすい傾向があります。そのため、上の立場にいる人が率先して対話を促し、議論を歓迎する姿勢を示すことが重要だといいます。
目指すのは「自走する組織」

森社長が最終的に目指す組織の姿は、「自走する組織」です。一人ひとりが目的に向かって主体的に考え、行動する状態こそが、組織を強くすると語ります。
「目的に向けて、それぞれが自ら考え、判断し、行動していく。これが本来の全員経営であり、チームが強くなる状態だと思います」
D&Iは、そのような組織を実現するための土台であり、個を活かす環境づくりが組織全体の力を高めていきます。
挑戦を生む風土へ。「小さく、速く、実行を重ねる」
一人ひとりに期待することとして、森社長が繰り返し語ったのが「挑戦」の重要性です。既存事業の深化と新たな価値創造を両立するためには、新しい取り組みに挑戦する風土が欠かせません。
「新しいことは、やってみなければ分かりません。大きなリスクを一度に取るのではなく、小さく、しかしスピーディーに実行を重ねていくことが大切だと考えています」
挑戦を評価し、失敗を学びに変える環境が整うことで、個の力はより発揮されていきます。
「一人で抱え込まない」ために
最後に、挑戦に不安を感じている人や、キャリアに悩んでいる人へのメッセージとして、森社長は「一人で抱え込まないこと」の大切さを強調しました。
「一人で抱え込むことが一番良くありません。会社の中には相談できる仕組みや支援制度がありますので、ぜひ確認して活用してほしいと思います。できればメンターのような対話を通じて考えを深められるような相手を持てると良いですね」


Interviewer’s Comment
D&Iやジェンダー平等の取り組みは、制度だけで進むものではありません。個が安心して声を上げられる環境、対話が生まれる文化、そして相談できる仕組みが整うことで、組織は確実に前へと進んでいきます。
多様な個が尊重され、互いの違いを力に変えていくこと。
その積み重ねこそが、これからの組織の可能性を広げていくのだと感じました。
HAPPY WOMAN代表 小川 孔一
PROFILE
森 信也(もり しんや)
森永製菓株式会社 代表取締役社長 COO
1984年、森永製菓株式会社入社。ヘルスケア事業部長、健康事業本部長、研究所副所長・研究所長などを歴任し、2019年に取締役上席執行役員に就任。2023年より取締役常務執行役員を務め、2025年より代表取締役社長 COOに就任(現任)。
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