映画『パプリカ』から考える「夢の可視化」と「夢への干渉」― DCミニはどこまで実現可能なのか?|HAPPY WOMAN ACADEMY

映画『パプリカ』から考える「夢の可視化」と「夢への干渉」-DCミニはどこまで実現可能なのか?|HAPPY WOMAN ACADEMY
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幼少時の愛読書の一つに、柳田理科雄先生の『空想科学読本』という本がありました。

漫画やアニメの奇天烈な技を、科学的に実現可能か検証する内容で、漫画・アニメと理科が好きだった私にはドンピシャの内容。今回は柳田先生のように、とまではいきませんが、最近見た映画の不思議アイテムがどこまで実現可能なのかを調べてみました。

今回取り上げるのは『パプリカ』。筒井康隆原作、今敏監督による作品で、公開20周年を記念して、この冬4Kリマスター版が放映されていました。作中に登場する「DCミニ」は、夢を映像化し、他人の夢に入り込んで干渉し、治療を目的として開発された装置です。しかし物語では、それが他者への攻撃に悪用されてしまい、徐々に夢と現実が交差していく、というストーリー。では、現代の科学はどこまでDCミニに近づいているのでしょうか。

1.人はいつ夢を見ているのか

かつてはレム睡眠で夢を見て、ノンレム睡眠では夢を見ないと言われていました。でも最近では、レム睡眠では視覚的・感情的でストーリー性の高い、映画のような夢を見やすく、ノンレム睡眠では思考的で静かな、考え事に近い夢を見ることがわかってきています。

脳波や眼球運動、筋肉の緊張などを組み合わせることで、研究者は「今この人はレム睡眠にいる」と判断できます。ノンレム睡眠で見た夢はあまり覚えていないことも多く、『パプリカ』に出てくる夢はストーリー性が強いという特徴があるため、パプリカで扱われた夢はおそらくレム睡眠期の夢だと考えられます。

2. 夢の「可視化」はできるのか

「夢を映像として再生する」レベルにはまだ遠いものの、夢の中身を脳活動から推定する研究は、すでに10年以上前から始まっています。それが「今、どんな対象を見ていたか」という、夢の中での視覚体験は、起きているときに見たものを処理する脳の仕組みと共通しているという研究です(Horikawa, 2013)。

この研究では、睡眠中の脳活動を計測し、覚醒直後の夢の報告と対応づけました。さらに機能的MRIで計測した脳血流パターンを機械学習で解析して「起きている時に画像を見ている脳活動」をもとに予測モデルをつくり、それを「寝ている時の脳活動」に適用することで、夢の中の視覚イメージを予測しました。

寝ているときと起きているときでは視覚知覚は共通。つまり、起きているときに見ている画像を脳活動から再構成できれば、夢も再構成できるのでしょうか。脳の活動から直接画像を生成する研究も生まれました(Takagi & Nishimoto, 2023)。MRIを介して取得された人間の脳活動から画像を再構築するために画像生成AIを使っている点が特徴です。

映画『パプリカ』から考える「夢の可視化」と「夢への干渉」-DCミニはどこまで実現可能なのか?|HAPPY WOMAN ACADEMY
映画『パプリカ』から考える「夢の可視化」と「夢への干渉」-DCミニはどこまで実現可能なのか?|HAPPY WOMAN ACADEMY

Horikawaらの研究(2013年)が「夢のカテゴリ(本、車、など)を当てる」ことに主眼を置いていたのに対し、Takagi & Nishimotoらの研究(2023年)は、「実際に目で見ている画像そのものを脳活動から再構成する」ことに成功しました。

3.夢への「干渉」はできるのか

『パプリカ』の怖さは「夢への侵入と乗っ取り」なのですが、現実の研究はもう少し穏やかです。

Salvesenらの2024年の系統的レビューでは、音・体性感覚・匂い・光・前庭刺激など、さまざまな刺激が睡眠中の夢に影響し得る研究が整理されています。

この領域は近年、「dream engineering(夢の工学)」として研究戦略も整理され、VR研究の技術などを用いて、感覚刺激を用いて夢や睡眠体験に介入・設計できる可能性について論じられています。悪夢やPTSDの軽減や感情調整、記憶固定や学習促進、運動学習などへの応用が期待されています。一方で、映画のような無意識下での学習操作や洗脳といった悪用のリスクや、眠っている人の脆弱な状態に対する警鐘も鳴らされています。

夢への干渉というよりは睡眠学習に近いのですが、Yangらの2025年の研究では、徐波睡眠(ノンレム睡眠の中の深い眠り)の最中にごく弱いゲーム音刺激を与えると、ゲーム欲求が弱まることが示されました。これは「ゲーム音 → 楽しい、ゲームがしたい」という反応を、「ゲーム音 → 何も起こらない」という状態に脳が無意識のまま学び直してしまうことを利用しています。眠っている間の治療、という点ではDCミニに似ていると感じました。

4.夢の研究の発展:DREAMデータベース

以前の夢研究は「夢を見ている時に起こして聞く」手法が中心でした。夢を見るたびに頻繁に起こされる参加者も大変ですし、研究者も夜通し起きていないといけません。さらに、夢の主観報告と脳活動の小規模なデータが別々にあり、統合的な解析が難しかったという課題がありました。

この問題に対し、2025年にWongらの Nature Communications で公開されたDREAM(Dream EEG and Mentation)データベースは、夢の内容(レポート)と睡眠中の脳の電気活動を同時に含む大規模なオープンデータベースで、夢研究の新たな基盤として国際的に注目されています。DREAMはこれまでの研究のギャップを埋めるために構築され、自由にダウンロードして利用できるオープンリソースとして公開されています。

こうした大規模・標準化データやAIの進化と共に、夢の解明はもっと進んでいくことが期待されます。映画『パプリカ』で描かれた世界の実現も、そう遠くはないかもしれません。

参考文献

  • T. Horikawa et al., Neural Decoding of Visual Imagery During Sleep, Science 340, 639–642 (2013). DOI:10.1126/science.1234330
  • Y. Takagi and S. Nishimoto, “High-resolution image reconstruction with latent diffusion models from human brain activity,” 2023 IEEE/CVF Conference on Computer Vision and Pattern Recognition (CVPR), Vancouver, BC, Canada, 2023, pp. 14453–14463, doi:10.1109/CVPR52729.2023.01389
  • Salvesen L, Capriglia E, Dresler M, Bernardi G. Influencing dreams through sensory stimulation: A systematic review. Sleep Med Rev. 2024;74:101908. doi:10.1016/j.smrv.2024.101908
  • Carr M, Haar A, Amores J, et al. Dream engineering: Simulating worlds through sensory stimulation. Conscious Cogn. 2020;83:102955. doi:10.1016/j.concog.2020.102955
  • Yang X, Song Y, Liu W, et al. Efficacy and mechanisms of repeated closed-loop auditory exposure during slow-wave sleep for internet gaming disorder. Mol Psychiatry. 2025;30(9):4151–4160. doi:10.1038/s41380-025-02995-1
  • Wong W, Herzog R, Andrade KC, et al. A dream EEG and mentation database. Nat Commun. 2025;16(1):7495. Published 2025 Aug 13. doi:10.1038/s41467-025-61945-1

【記事】小林 七彩(精神科専門医・指定医/医学博士/産業医)
宮崎で生まれ育ち、関東で急性期、依存症、睡眠、児童等精神科医療を幅広く学ぶ。医学×工学×芸術のコラボと人の行動変容に興味を持ち、大学病院で臨床・研究・教育に携わる。プライベートは食と猫と漫画に嗜癖傾向あり。

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