【インタビュー】目黒ケイ氏|アーティスト

アートを通じて伝える「自分らしくいられること」の大切さ

Profile

目黒ケイ

アーティスト

 ブルックリンと東京在住のアーティスト。School of Visual Arts, NYCにてグラフィックデザインBFA取得。幼少の頃より絵を描き続け、これまで写実的な人物像を木炭や黒鉛、鉛筆で描くと同様iPadのみでのデジタル作品も多数ある。わざと荒く陰影を付けたり、イメージを崩したり、差し色を加えることで現実では表現できない世界観を作っている。

インタビュー

■アーティストを目指されたきっかけをお聞かせください。

―まずは、絵を描き始めたきっかけは?

 絵を描くことになったきっかけは、父の仕事の関係で引っ越しが多かったのですが、ちょうど私が3、4歳の年頃に香港に引っ越ししました。香港は英語と中国語がメインなので日本語が全く通じないというつらさを経験して、どうやったら人とコミュニケーションが取れるかなということをすごく考えました。絵を描いたり、似顔絵を描いて誰かに渡したりした時に喜んでもらえたことで絵の楽しさに気づき、そこでポッと目覚めた感じがありました。こうして絵でコミュニケーションが取れるということに気づいたのです。そのことがちょっと自信になって、最初は内気だったということもあり、人と全くしゃべれなかった私が、少しずつ人と繋がっていくことができて、子供ながらに楽しかったです。

人に喜んでもらうこともすごく良かったのですが、それ以上に、自分を認めてもらえるツールは絵なのだと、その時に気づきました。自分が自分でいられる、自分らしくなれることがアートなのだなと思いました。

■大学 School of Visual Arts, NYCでの学生生活は?

 美大を目指し最初は絶対入れないだろうと思っていましたが、受けてみたら入ることができました。それは良かったのですが、アメリカの大学は入学するのはそんなに難しくなく卒業するのがものすごく大変だなということに、大学に行ってから気づきました。ニューヨークで通っていた美大は、教授がプロでデザイナーをやっていて、サイドビジネスで先生もしている方が多く、その先生のクラスに入れてもらえるとそのまま彼らの所属しているデザイン事務所に入れるという、いわばプロ養成所のようでしたね。

 いろんなラスボスがいる感じで自分のつきたいラスボスの教授を見つけるのに4年間かかる感じです。そこで私はデザインの先生にすごく気に入ってもらえました。デザイン会社をやっている女性の先生で、その方がいつも「女性は自立しないといけないよ」ということをクラス全体に教えていて、とてもカッコよかったです。

■キャリアの中で苦労したこと、嬉しかったことはありますか?

―大学を出てからは、一旦企業に就職されますね?

 アメリカでは、大学を卒業するためにはポートフォリオというものを作らなくてはならないのですが、そのポートフォリオは4年生の最後の集大成で、体育館のような大きな施設で、自分の発表会をするイメージです。そこにプロの方が見に来るので、そこで自分の作品が初めて人の目に触れることになるのですが、その時に大手のクリエイティブエージェンシーに、その場で「じゃあ、来週から来てくれ」という声を掛けてもらいました。

―お仕事をする上での苦しかった経験はありましたか

 大手クリエイティブエージェンシーでは1年ぐらい仕事をしたのですが、やっぱり想像していたグラフィックデザイナーの仕事とは全く違っていました。日本人なので下積みについては頭の奥にあったのですが、自分で想像していたものとは違っていました。 カッコいいクリエイティブディレクターになる目標を持っていましたが、そのビジョンがだんだん見えなくなってきて、自分に向いているのか、合っているのかということを見極めるのが、すごくつらかったですね。

―お仕事で嬉しかったこともありますか?

 お仕事で好きなことが出来ない時期に、インスタグラムに絵を描いて、とりあえずアップをすればなんとかなるだろうと始めました。何ごとも続けていくとコツを掴むじゃないですが、自分の練習にもなり、ポートフォリオ作りにもなりました。やはりもう一度ゼロから好きなことをやってみようと思った時期に、ずっと一緒にお仕事したかった雑誌社からお声がかかるということがあり、とても驚きましたし嬉しかったです。

 また、2016年に個展を開催した際に来てくれた当時まだ高校生だった子が、少し前にメッセージをくれました。「個展に行った時に頑張ってと言われて、今、イギリスでアートの勉強をしています。」という内容で、すごく嬉しかったですね。

■アート業界を目指す後輩たちにメッセージをお願いします。

 やりたいことを見つける時に、自分の持ち味と世間のニーズを見つけることも大切ですが、やはり自分が一番楽しくて心が動かされることや心が躍ることをやり続けることで必ず実になったり、花になったりすると思っています。それを続けることで、つらい時もありますが、最終的に「楽しい」が勝ってほしいと思います。

 また、「今から、アート始めるのは遅いですかね?」というメールをいただきます。私自身、若い頃会社勤めしていた時の経験はデザインのキャリアとして無駄な時間なんじゃないかと思っていました。でも結局、今のお仕事であの時の経験が役に立っているということがすごくあるので、遠回りだと思っていることも多分やらなくていけない道で、その行った先に必ずやりたいことや好きなことがあるから大丈夫ということを伝えたいです。

失敗したなと思っても、それをちょっと修正すればいいだけのことであって、このやり方では出来なかったから、じゃあ違う道や違うやり方でやってみようとか、自分でシフトできるとメンタルも楽になると思います。

■今後の目標を教えてください。

 今、アメリカの方が少し長いぐらいなのですが、日本の仕事を少しづつ増やしていて、日本に拠点を移した大きな理由が、日本人の女性や若い子から毎日のように100件以上のダイレクトメールをいただいていますが、「どうやったら、あなたのように独立して自分の好きなことを女性としてやっていけるのでしょうか?」 といったような内容を日本人の方から多くいただいているので、これらの声を無視できないと思っています。今後、自分のアートの部分を極めていきたいということもありますが、自分の経験を人にシェアできて 特に色々な女性の方が自立するとか、やりたいことをやるということをもっと応援できるような人になりたいなと思っています。

 女性への支援と並んで、LGBTQの方など、マイノリティの方が日本では、もっと普通になればいいなと思っているので、そういう場所を提供することをやりたいと思っています。私のアートきっかけにして、いろんなアーティストやクリエイティブな方が集まるカフェやギャラリーの様な場所を作りたいなと思っています。

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