【インタビュー】石川 雅恵氏|UN WOMEN

選択の結果を決めるのは未来の自分自身

昨年10月、UN Women(ユーエヌ ウィメン)日本事務所の所長に就任した石川さん。約20年におよぶ国連機関での勤務経験と海外生活から得たもの、そして単身、日本へ来る背景にあった決意について伺いました。

国連のお仕事に興味をもたれたきっかけは。

「大学院のころ、教授に「ブルキナファソの識字率を知ってるか?」と聞かれました。それまで、本が読めること、教科書で学べることを当たり前と思っていたけれど、世界には教育が受けられず、識字率が3割を切る国もある。その背景には貧困や差別などがあることを知って衝撃を受けました。そこから国際関係や開発に興味を持つようになり、外務省の専門調査員に応募しました。

採用してくださった方に後日「どうして私が合格できたんでしょうか」と尋ねたところ、「体が大きくて丈夫そうだったから!」と言われました(笑)。半分は冗談ですが、確かに、国連の仕事は体力的にハード。朝からスタートした会議が深夜まで及ぶこともあります。それというのも、190以上の国や地域の人々が集まり、それぞれの立場で主張をしなければならないから、簡単には意見がまとまらないのです」

海外でお仕事をされてみて、日本と諸外国のちがいをどう感じましたか。

「日本で生まれた自分は、阿吽の呼吸や空気を読むといった、いわば「和」を尊ぶ気質がある。一方、欧米やアフリカ諸国の人たちは、討議に長けています。強引に自分の意見を押し通すのではなく、感情的にならずきちんと主張をする訓練が子供のころからできているのですね。国際社会で仕事をする上では、そこは見習うべき技術です。

反対に、他の国々から見る時、日本人の几帳面さや誠実さ、与えられた仕事に確実に成果を上げる信頼性は高く評価されています」

UN Womenの日本事務所所長になり、約20年ぶりに日本に戻られました。

「そろそろ、生まれ育った日本で自分ができることをしてみたいな、と考えはじめていたところ、このポストの公募を見つけました。これまで一貫して女性や子供の人権保護に関わる業務や機関に携わってきたこともあり、UN Womenが目指す「ジェンダー平等と女性のエンパワーメント」に、心から共感し力を尽くしたいと思える自分がチャレンジすべきだと考えました。

ただ、日本で仕事をするためには、アメリカに生活拠点を置く夫と子供と離れて暮らすことになります。子供はまだ9歳ですし、自分の夢のために家族に負担をかけることを思うと、葛藤は小さくありませんでした。

でも、ふと気づきました。これって、全世界の女性に共通する悩みなのかもしれない。どうして、父親が単身赴任するのは普通で、母親だとおかしいのか。まず、自分がひとつ、既成概念の殻を破ってみよう。そんな想いもあり、日本へ単身赴任する道を選びました。

私がいつも自分に言い聞かせているのは、『正しい選択と悪い選択だけではなく、その中間もある』ということ。選択の結果を判断するのは、未来の自分。まずは、今与えられた仕事を悔いなくやりきって、いつか笑顔で振り返ることができるよう、日本でUN Womenの支援者を増やす目標に、全力で挑みたいと思います」

Profile

石川 雅恵

UN Women
日本事務所 所長

関西学院大学社会学部卒。オレゴン大学国際学部学士。神戸大学大学院国際協力研究科法学修士。同大学院博士課程在籍中に外務省専門調査員試験に合格し、1998年より日本政府国連代表部専門調査員。国連児童基金本部コンサルタント、国連人口基金広報渉外局資金調達部を経て現職。

UN Women (ユーエヌ ウィメン)

ジェンダー平等と女性のエンパワーメントのための国連機関。
国連加盟国がジェンダー平等の達成を目指し、国際基準を策定する支援をしている。

【5つの重点活動領域】
•女性のリーダーシップの向上と参画の増加
•女性に対する暴力の撤廃
•平和と安全保障のあらゆる局面における女性の関与
•女性の経済的エンパワーメントの推進
•国家の開発計画と予算におけるジェンダー平等の反映

ジェンダー平等のための運動『HeForShe』

UN Womenによる、ジェンダー平等のための連帯運動。2014年に潘基文国連事務総長(当時)とエマ・ワトソンUN Women親善大使により発表されて以来、各国首脳やCEO、世界的な有名人を含め世界中の賛同者が参加。2018年2月現在、世界160万人以上(日本でも5,100人以上)がHeForSheに署名している。

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