【読書していますか?】今こそ読みたい、私たちにパワーをくれる文学

私たちに文学が必要な理由

最近、読書していますか?

社会人になり忙しく過ごしていると、実用書は読んでいても、文学作品は読んでいない…という方も多いのではないでしょうか。そうだとしたら、とってももったいないことです。

日々忙しく働く女性にこそ、文学は効きます。

職場で理不尽な思いをした、疲れ切って何もしたくない、自分の気持ちをうまく言葉にできない…。そんな時こそ、文学の出番です。
作家たちが、命をかけて書き上げた物語には、さまざまな人生が描かれています。悩みを解決する糸口が見つかるかもしれませんし、そのままの自分を肯定する勇気がもらえるかもしれません。

文学は、私たちが自分らしく生きるエネルギーになるのです。

今回は、文学に命を救われた筆者が、私たちにパワーをくれる3冊を紹介します。

もう一度読みたい『赤毛のアン』

手違いで孤児院から引き取られた天真爛漫な少女アンが、引き取り手の老兄妹の頑なな心を解き、友人にも恵まれて幸せを掴む…。誰もが知る名作ですが、大人になって再読してみると、印象は大きく変わります。

アンは、11歳で孤児院から引き取られるまで、親戚からも引き取りを拒否されて一人ぼっちでした。友だちにも気配りができる敏感なアンのことですから、傷ついていないわけがないのです。そう考えると、アンの「天真爛漫さ」は天然というよりも、大人からの愛を受けるための「演じられた子どもらしさ」のように見えてきます。魅力の一つである豊かな想像力も、厳しい現実から逃避する手段として育まれたのかもしれません(大人になった今だからこそ、こんなことに気づきます)。悲しみに笑顔でフタをし、幸せを求めて周りを巻き込んでいくアンの姿は、少女時代に出会った時とは違った種類のパワーを私たちに与えてくれます。

『長くつ下のピッピ』や『小公女』、『あしながおじさん』など、昔から読み継がれている少女小説の主人公は総じて親が不在であり、「女の子らしさ」の典型から外れている、ということは、研究者も指摘する通り(注1)です。女性のキャリア、フェミニズムといった言葉が生まれる遥か前から、少女たちは自由で強い主人公に憧れていたと思うと、なんだか嬉しくなりませんか。

『ブラームスはお好き』で自分に向き合う

繊細な心を洒脱な文体で描くフランソワーズ・サガン。10代の少女が主人公の『悲しみよこんにちは』でデビューした彼女ですが、こちらの小説の主人公は39歳の女性。安定した結婚生活を手放しデザイナーとして独立した、ポールというキャリアウーマンです。ロジェという気心の知れた恋人がいますが、真剣な交際はしていません。そんなとき、一回り以上年下のシモンに熱烈に迫られて…というストーリー。

真剣に愛してくれるシモンに惹かれながらも、彼の情熱は若気の至りなのではと疑う気持ち。長年付き合ってきたロジェへの情。傷つくことを恐れて逡巡してしまうのは、経験値のある大人の女性だからこそ。ラストシーンは切ないですが、現代だったら違う結末になったかも?と想像が膨らみます。

設定は王道ですが、魅力はなんといっても心理描写が秀逸なこと。複雑な感情を、魔法のようにしっくりくる言葉で表現するのは、さすがサガン。自分の気持ちをうまく言えないときの処方箋となってくれることでしょう。

一人じゃない心強さ 『女生徒』

太宰治といえば、教科書で読んだ「走れメロス」が有名ですが、筆者の一推しはこちら。若い女性読者から送られてきた日記をもとに、女学生の1日を一人称で綴った短編小説です。

美しい女性の先生への憧れ、自分の体が成熟していくことへの不安、お世辞を言い合う大人への軽蔑、両親への愛情と嫌悪感…。忘れかけていた懐かしい気持ちが、怒涛のごとく押し寄せてきて、泣きたくなってくるほど。

発表されたのは今から90年近く前ですが、現代の私たちが読んでも「分かる、分かる!」と共感することばかりです。
遥か昔の少女と心でつながったような気がして、不思議な安心感が感じられる。一人じゃないと思える。そんな一冊です。

今を生きるヒントは古典にも!

大河ドラマで「源氏物語」が話題になっていますが、古典文学にも現代に通用するヒントがたくさんあります。お化粧を嫌い、虫と戯れる変わり者のお姫様を描いた「虫愛づる姫君」(「堤中納言物語」収録)は、女性らしさの型にはまらない姫が痛快。批評精神にあふれた「枕草子」は、当時の女性の教養の高さと同時に、物事を違った視点から見る面白さを実感させてくれます。

何百年という時間を経ても読み継がれているのは、いつ読んでも新しい発見があるから。堅苦しい、古いという先入観を一旦忘れ、ぜひチャレンジしてみてください。

暑さもようやく落ち着いてきました。一緒に読書の秋を楽しみましょう!

注1 斎藤美奈子『挑発する少女小説』河出新書

【記事】中丸ともえ(私立学校教諭(国語))
居場所がないと感じていた少女時代、放課後と休日のほとんどを図書館で過ごした。小学三年生の時、中原中也の詩に出会ったことで生きる希望を見出し、文学を志す。一人でも多くの人に文学の素晴らしさを伝えるため、日々奮闘中。
最新情報をチェックしよう!