「自己効力感」と「自己肯定感」という言葉をご存知ですか。何かの行動や挑戦に対して、「自分ならできる」と考え、自分を信じられる力のことを自己効力感と言います。 一方、自己肯定感は、何かをできるかできないかに関わらず、どちらであっても自身の存在を肯定できる、認められる力のことです。今回は前者の「自己効力感」について触れていきたいと思います。
自己効力感は、経験の中から高めることができる
心理学者であるアルバート・バンデューラは、「期待」を「結果予期」と「効力予期」に分けることができるとしています。結果予期は、「ある行動が特定の結果をもたらすという評価」。効力予期は、「結果を出すために必要な行動をうまく行えるという確信」です。この自分に認知された効力予期が「自己効力感」ということです。
そして、自己効力感を高めるための情報源は以下の4つです。
① 遂行行動の達成:自分の力でやり遂げた経験
② 代理経験:他者の行動を見聞きして学ぶ経験。モデリング
③ 言語的説得:言葉で示唆されたり、励まされたり、認められること
④ 情動的喚起:自分の情動に気づき、心身ともに落ち着かせること
(参考:「キャリアコンサルティング 理論と実践」木村周・下村英雄著 一般社団法人雇用問題研究会)
それぞれは大きな経験でなくても、日常生活の中に沢山の機会があります。自分の力でやり遂げた経験だけでなく、文献で読むこと、周囲の経験を聞くことからも自己効力感を高めることができるのです。
子どもの自己効力感を高めるためには、親の忍耐も必要
ある日、小学校4年生の娘が1枚の楽譜をもって学校から帰宅しました。卒業生を送る会で贈る歌のピアノ伴奏のオーディションを受けたいとのこと。練習期間は約1ヵ月半。4歳からピアノを習ってはいるものの、練習に対して苦手意識がある娘が自分の意志で参加を決めてきました。練習期間が短いにも関わらず、本人は焦る様子もなく、悠長に構えています。そのため親の方が心配になり、「この時間に練習した方がいいんじゃない?」「ピアノの先生に相談してみたら?」と、口を出してしまいました。
しかし、人から言われれば言われるほど、やりたくなくなるのが不思議。娘の様子を見て、本人の意思に任せる必要があると感じ、言いたい気持ちをグッと抑えることにしました。自分の力でやり遂げる経験をさせずに、親が先回りして「答え」を出すことは、自己効力感を高める経験の妨げになるのです。
必要なタイミングで、丁寧に言葉で伝える
その後、娘が本格的に楽譜に向き合えたのは、オーディションの数週間前。楽譜の2/3がゆっくり弾けるくらいの状態でオーディション当日を迎えました。
当日の朝、「頑張ったからチャレンジしたい」という気持ちと立候補した責任、そして、もっと「早く練習すればよかった」という後悔とうまく弾けない悔しさから、「学校に行きたくない。」と、言いました。彼女にとって何が最善かを考え、まずは今の気持ちに共感した上で、向き合って話をすることにしました。
・努力は無駄ではなく、自分の糧になること
・本分を疎かにしないこと(学業)
・必要な人に自分の言葉で意思を伝えること
・頑張った自分を信じてあげること
(オーディションに参加しないのであれば、自分の言葉で、理由を音楽の先生に伝えること。参加を決めたら、精一杯弾いてくること)
これら「自分で決めた決断に対して、最後までやり遂げること」を伝えた結果、本人はオーディションを受けると決め、学校へ向かいました。自分の中で最善を尽くしたと思えたのでしょう。決断した際の表情は清々しく、頼もしくもあり、成長を感じさせました。
自己効力感を高めることで得られるもの
自己効力感が高まると、物事を自発的に進めることができ、自分の行動に責任が持てるようになります。また、その自信から、周囲との適切な距離を保てるようにもなるでしょう。子育てでは子ども、職場であれば部下や後輩に対して、見守る側のサポートも必要にはなりますが、早い段階から遂行行動の達成の経験等を促し、言語的説得を行い、自己効力感を高めておくことは早い精神的自立にも繋がるのではないでしょうか。
自分自身でも毎日小さな目標を立てて達成していくことは、大きな目標や挑戦へ向き合うための自己効力感を高めることができます。小さな積み重ねも大きな挑戦もどちらも無駄ではありません。
私たちは、社会、仕事、家庭、子育てなど人生や生活のあらゆる場面で、多種多様な行動判断、選択に遭遇します。その時、本日テーマにした「自己効力感」は、物事を前に進める鍵となるのではないでしょうか。
新卒からアパレルメーカーにて勤務。販売職にて接客サービスを学んだ後、人事として採用・配属・教育・評価など幅広く携わる。人事歴は16年。2024年国家資格キャリアコンサルタント取得。二児の母。