あなたの職場には、「問い」がありますか?
意思決定が速く、曖昧さに耐えない組織ほど、「問い」や「対話」は効率を妨げるものとして敬遠されがちです。
しかし、変化が常態となり、多様性が前提となった今、問いや対話のなさがチームの硬直や分断を招いている場面は決して少なくありません。特に、30代〜50代の中堅・管理職層に求められるリーダーシップの在り方は変わりつつあります。
「正解を出す」より、「主体性を引き出す」「関係性を育む」「変化をともに歩む」
──そんなスタンスが、これからの組織やチームの持続性を左右していきます。
私自身、これまで300社を超える企業の採用支援や人材育成支援に従事し、現在は組織開発・エンゲージメント支援の現場で、対話の設計や管理職育成、対組織やチームへのコミュニティのデザインに取り組んでいます。
その中で実感しているのは、「問い」のある組織文化が、人と関係性の質を大きく左右しているということです。
本稿では、組織を育てる“関係性の土壌”としての問いと対話の力について、理論と実践を交えながら掘り下げていきます。
「変化を生む問いが、変化を恐れない組織をつくる」
─ Edgar H. Schein(『Humble Inquiry』)
この言葉は、組織開発(OD: Organization Development)の文脈で、繰り返し語られてきた命題です。
組織は制度や構造ではなく、関係性のネットワークとして存在しており、その質を高める鍵が「問いの在り方」にあるとされています。
たとえば、会議の冒頭でこう問いかけるだけでも場の空気は変わります。
•「今、チームで起きている変化を一言で表すとしたら?」
•「最近どんなときに成長を実感した?」
たった一言の問いが、発言の量と質を変え、内省を促し、普段見えづらかった想いや状態が浮かび上がってくるのです。
問いのない組織では、暗黙のルールや未整理の感情などが滞留しやすくなります。
一方で、問いのある組織には、探求と余白があり、“わかり合おうとする文化”が少しずつ根づいていきます。組織やチーム力を高めるためには、相互理解を育てる土壌が必要です。
キャリアの観点から見る「問い」の力
リーダーとしての自信が揺らぐとき、あるいは立ち止まりを感じるとき、キャリアの視点でも「問い」を立て直すことはとても有効です。
キャリア構築理論を提唱したマーク・サビカスは、キャリアとは「自己概念に基づき、自分で意味づけながら編んでいく人生の物語」と語ります。
この考え方は、過去の経歴の羅列ではなく、「自分が何に意味を感じてきたか」がキャリアの本質であることを示しています。
たとえば──
•「なぜ、あの仕事は忙しかったのに充実していたのだろう?」
•「なぜ、あのプロジェクトが終わったとき、達成感よりもモヤモヤが残ったのだろう?」
そんなふとした問いから、自分が何を大切にしてきたのかが立ち上がってきます。
「どんな出来事があったか」ではなく、「そのとき、自分は何をどう意味づけたか」──
それを言葉にすることで、これからの自分のあり方も、より納得感をもって選び直していけるようになります。
キャリアとは、問いながら、意味をつくりながら、変化し続けるもの。
正解にしがみつくのではなく、今の自分にフィットする方向を柔軟に選び取っていく。
そんな“しなやかなキャリア観”が、変化の時代の働き方の土台になっていくのです。
アンコンシャス・バイアスと問いの関係
組織開発において欠かせない視点に、「アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)」があります。
たとえば──
•女性の部下に「もっと自信を持っていい」と声をかけたつもりが、逆にプレッシャーになってしまう
•若手に「この仕事はまだ早い」と無意識に機会を与えない
•「このやり方が一番効率的だ」と思い込み、他の方法を試す余白を潰してしまう
こうしたバイアスを手放すためには、「自分はどんな前提で、この言葉を発したのか?」という問いかけが重要です。
問いは、相手に投げるものだけでなく、まず自分自身に向けるもの。
自分の内側を見つめる問いは、感情や判断の背後にある「思い込み」に光を当ててくれます。
そして、それが対話へとつながっていくとき、組織の心理的安全性や主体性や、関係性作りが欠かせないエンゲージメントも、確実に育っていきます。
対話の頻度が多いチームは、少ないチームよりも、離職率が低く、生産性も高い──
様々な研究や調査からもそんなデータがあるように、関係性は日々の小さな問いから変わっていくのです。
「問いに開かれていること」が、新たなリーダーシップ
変化が激しく、誰もが「わからない」を抱えている時代。
そんな中で信頼されるリーダーとは、「問いに開かれている人」だと私は感じています。
•「この状況を、あなたはどう見ていますか?」
•「この判断に、何を感じましたか?」
•「この行動の背後には、どんな動機がありましたか?」
ときには正解を知っていても、あえて問いを投げかける。
自分の枠組みを手放しながら、他者の視点に触れ、意味を共に編んでいく。
そうした“関係性のリーダーシップ”こそが、これからの組織に求められる資質なのだと思います。
おわりに
問いを手放さない組織は、しなやかに変化できる
私が多くの企業を支援する中で確信しているのは、強い組織ほど「問い」を失っていないということです。
正解よりも、対話。
成果よりも、信頼。
予定調和よりも、共創。
それらを支えるのが、目には見えない「問いというインフラ」であり、問いを起点に関係性を育む力なのだと思います。
•「このチームは、いま本当にワークしているだろうか?」
•「この沈黙の裏には、どんな声があるのだろう?」
そんな問いを、自分にも、チームにも持ち続けられる人が、これからの組織をしなやかに育てていく。
その信念をもって、私はこれからも、問いと対話を届けていきたいと思います。
(組織開発支援/ISO30414リードコンサルタント・アセッサー/国家資格キャリアコンサルタント・米国CCE,inc.GDDF-Japan キャリアカウンセラー)
人材業界での法人営業・キャリア支援を経て、現在は対話型組織開発、エンゲージメントサーベイの活用、リーダー育成に従事。また、社内外でのコミュニティ運営やDE&I、女性活躍推進プロジェクト推進経験を活かし、組織やチームの対話デザインと関係性の文化づくりに伴走中。